六連星手芸部員が何か書くよ

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無資格カウンセラーの何が危ういのか、アイドルカウンセラーに活路はないのか

BLOG | 中元日芽香オフィシャルサイト

乃木坂46中元日芽香さんが、心理カウンセラーとして活動する事を発表して賛否両論巻き起こっていますが、私は“現時点”では全面的に否の立場です。何よりも中元さん本人の為にそう思いますので、具体的な理由を説明していきます。その上で記事の最後に、ではどうするのが良いのかという提案をします。


<技能以前に専門性とは何か>

さて、話の本質に踏み込む前に内状を少し話します。例えば、臨床心理士の試験資格取得者を育成する大学にはカウンセリングセンターを併設している機関も多く、来談者(相談に来た方、クライアント)の初回面接にはその機関で最も経験豊富なカウンセラーが当たる事が多いです。これが何故かというと、来談者の人となりや生育歴、過去から現在に至るまでの困り事等、それらを丁寧に聞き取り、適切な対応を検討し、双方合意の下でカウンセリングを実践する必要がある為です。その上で担当する心理士や精神科医が決定され(個々にも専門がある為)、実際の面接や心理療法に携わる事になります。

しかし、その過程で担当心理士個人には対応不可能な事態になる事もあり得ます。例えば、当初の面接では来談者も自覚していなかった事実が面接の過程で現れる事もありますし、来談者が突発的なトラブルに見舞われる事もあります。そうした時に、自分では対応出来ないという判断を下す事が出来、かつ、適切な後任者や機関へ繋ぐ事が出来る能力を持った人が専門家というわけです。「今時資格ではない」そういう意見もチラホラ見かけましたが、ある意味ではその通りです。資格以前の問題です。

※追記

来談者が心理療法を受ける敷居が下がる事と、心理療法を行うカウンセラーになる事の敷居が下がる事を混同している方が多く見受けられます。前者が下がる事にはメリットがあると思いますが、後者が下がりカウンセラーの質が下がる事は問題です(金銭的な面で心理士の育成に補助が出る、などの話はまた別です)。大学の講義4科目分にも満たない時間で取得出来る資格と、主として指定の大学院まで修了しなければ受験資格すら得られない資格では、質的に大きな隔たりがあります。適切な心理療法を行う事が出来なければ、クライアントの容態が悪化しますし、その結果としてクライアントを引き継ぐ他の心理士の負担が増える事に繋がりかねません。


<無資格である事の危うさ>

実際に現場で起こる事なので単刀直入に言います。「自殺したいんです…」や「◯◯を殺したいほど憎んでいます」といった相談が寄せられた場合にどう対応しますか?「ちゃんと向き合っていきたいと感じたら、本格的な各機関に頼るもよし。必要としている家族や友人に勧めるもよし。」などと悠長に構えている場合ではないのです。その話が終わった直後、適切に対応出来なかった場合に何が起こるのかを考えてみて下さい。この点を考慮出来ない事、適切に対応出来る能力や必要な機関を紹介出来ない事が無資格である事の、言い換えるなら、広く心理学に関する専門的な知識や技能を有していない事の危うさです。批判とかそういうレベルの話はしていません。現実的に人死が出るかどうかという話です。


<カウンセラー当人の被るリスク>

上記では来談者が被るリスクについて記しましたが、次はカウンセラーが被るリスクについて記します。さて、これも実際に起こる事なので記しますが、もし来談者が自殺してしまった場合、カウンセラーに何が起こるでしょうか?責任を問われて刑事事件に発展するのでしょうか?それとも民事訴訟で争う事になるのでしょうか?それらも当然考えられる事ですが、ここで絶対に考慮しなければならない事として、カウンセラー本人が自殺するケースは少なからずあるという事です。実際に、大学のカウンセリングセンターに勤め、スーパーバイズ(より経験豊富な専門家の指導や心理状態の管理、くらいの意味です)を受けていた私の知人でさえ自殺されています。そして、カウンセラーが専門性を有していないという事は、それだけこういったリスクに対して非常に無防備であるという事です。「応援する」と言っているファンの方々は、もし、彼女がこういった事態に直面した場合の事を考えているのでしょうか?


<アイドルがカウンセラーになるという事>

フロイトユング等の古典的な心理学を一通り学ぶ上で、嫌というほど目にする事があります。“カウンセラーと来談者”は恋愛関係のような状態になりやすい、というカウンセラーが避けては通れない状態です。一対一の面談を基本として、自分にとって非常に親身になってくれる相手が目の前にいるわけですから、この事態は想像しやすいのではないかと思います。これには様々な要因がバイアスとして存在するわけですが、”アイドルである“というバイアスは何にも増して強力でしょう。もはや、既存の理論を面接や心理療法を持ち込む事は不可能に思えます(そういった事態が想定されていないと言い換えてもいいです)。いのちの電話やメールカウンセリングのような、カウンセラーの個人的要素がバイアスとなりにくい分野であれば、まだ活躍の場があるかもしれません。しかし、それはこの方の目指す形とは異なる気がします。


さて、アイドルという個性はカウンセラーにとって非常に不向きであると記しました。しかし、これでは職業選択の自由には反しますよね。そこで一つ提案なのですが、私は、中元さんはアイドルという個性、その大きな財産を生かして活動するのが最も良いのではないかと思います。


<アイドルカウンセラーの活路とは>

具体的な提案をする前に、何故アイドルである事が活路となるのかを記します。私は芸能界というものに全く明るくありませんが、心理的、精神的な疾病、あるいは、薬物やアルコール依存などを理由に引退される方も決して少なくはないですよね?これは、芸能界だからピックアップされて報道されているからそう見える、という事は考慮する必要があると思います。しかし、一般の母集団を対象として有用性が確立された心理療法であっても、芸能界という母集団にこれがそのまま適応出来るかは非常に疑問であり、疑問があるという事は研究の余地があります。その為には、芸能界という独特なコミュニティにおける生活習慣や人間関係等、何がその母集団に対して健康を促進する要因として働くのか、あるいは疾患を誘発する要因として働くのかを調査する必要がありますが、一般的な心理士や大学の研究機関では、調査そのものが難しいでしょう。

そこで、前述の提案です。中元さんはせっかく芸能界に所属しているという大きな強みを持っているのですから、それを生かして芸能界に対する心理的な調査や、その結果を基にした心理療法を提案し、実施していく事が出来るのではないかと思うのです。これは他の人にはなかなか出来ることではなく、その機会すら得られないでしょう。そういった事も見据えて、表面的な心理療法だけではなく、広範的な心理学の知識や職業倫理、研究に必要な統計的な知識等を学んで頂くのが良いのではないかと思います。