①逮捕されないのは何故か
結論から記すと、逮捕拘留期間は限られてる(最大20日)ため骨折治療中に逮捕してもそもそも満足に取り調べ出来ないから、というのが現状に即しているかと思われます。逃亡の恐れというのもこれに絡んだ事でしょう。要するに、逮捕したところで取り調べ中に身体の痛みを訴えられたら続行不可能なので、それで20日間逃げ切られたら拘留期間が無駄になるという事です。他には、もし負傷状態での逮捕を強行すればその手の人権団体や弁護士もうるさいでしょう。もし自分が悪徳弁護士の立場なら、前述の方法で拘留期間を無駄撃ちさせて不当逮捕だなんだ騒ぐ方略を取り、満足に取り調べされなかった点を利用して証言の矛盾を追及する事で裁判を有利に進めます。
そんな無駄なやり取りをするくらいなら、任意で取り調べした方が後々に検察側が不利になりません。正直、逮捕を強行するよう主張されてる方が多い現状については、いったいどっちの味方をしてるんだ?と個人的には思います。
②証拠隠滅とは
よくSNSのアカウントを消したとか何とか噂されてますが、本件における証拠というのはそういった類のものではないです(まあ、心証は悪いので株価等には影響するでしょうが)。ここでいう事件に関する証拠とは、実際に事故を起こした車両や本人の通院記録、病気の既往歴、服薬の有無、現在の健康や認知機能の状態等が挙げられます。車両は押収済みですし、通院や服薬に関しては病院や薬局、保険適用に当たってのログが残っているので加害者サイドが自宅で領収書を処分してどうこうなる問題ではないです。担当医が金握らされて証拠隠滅に加担したとか刑事ドラマやミステリにありますが、それはまた別の話になるのでとりあえず置いておきます。実際、担当医が運転をしないよう指示していたという証言が取れているようなので、こういった事は起きていないのでしょう。また、当初から報じられている事ですが、車両にも故障や欠陥は見つかっていないようなので物証も問題無いでしょう。
③危険運転致死傷罪で立件される気配が無いのは何故か
ここからが本題です。結論から言って本件が危険運転致死傷罪で立件される確率はかなり低いと思われます。何故か?それは、下記の通りこの法律において規定されている「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」に関して、内因性の疾患及び心理、精神の疾患の記載はある一方で、身体疾患の記載は一切無いからです。
つまり、医者が運転を止めるよう注意した身体の不自由な人が、それを無視して無理矢理運転した結果として重大な事故を引き起こすというケースが、そもそも危険運転致死傷罪においては想定されておらず、法的に規定も明記もされてない、という事です。
警察の捜査が手緩いだとか忖度だとか言ってる人が多い印象ですが、上記の通り警察は物証を得ていますし医師の証言も取っています。捜査のために被疑者を拘束する逮捕、捜査の手続きを警察から検察へと移す送検、裁判を行うための手続きである起訴、裁判の結果である有罪無罪の確定を全て一緒くたにされてる方が多い印象ですが、本件の抱える本質的な問題は捜査方法ではなく法律の問題です。警察の捜査方針について文句を言っている暇があれば、居住地域の代議士にこの法律について問題意識を持っているかどうかを問い合わせた方がよほど現実的だと思われます。
危険運転致傷罪
(第二条、第三条)下記の行為によって人を死傷させた者
- アルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
- アルコール又は薬物の影響により、正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてアルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状態に陥ったもの
- その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
- その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
- 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてその病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの
自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある統合失調症
- 覚醒時に意識や運動に障害を生じる恐れがあるてんかん
- 再発性の失神障害
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある低血糖症
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある躁鬱病(単極性の躁病・鬱病を含む)
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 - Wikipedia
より抜粋
※2019年10月19日に被疑者がパーキンソン症候群の疑いがあるという報道がありましたが、いずれにせよ上記の危険運転致死傷罪の要項には該当しない為、現行法の規定ではこの罪状では立件出来ません。
つまり、今後も同様の事件が起こった場合、法改正がされない限りは厳罰に処される事はありません。変えるべきは警察の捜査方法ではなく法律ですが、これを指摘するメディアはなく世論も被疑者に有利なように誘導されていると感じます。繰り返しますが、本件に本当に憤っているなら居住地域の代議士(政治家)に危険運転致死傷罪に欠陥がある旨の訴えをして下さい。
そして、警察が被疑者を手当たり次第逮捕してると思っている方は、一度、犯罪白書に目を通す事をお勧めします。実際はマスコミの報道が逮捕案件に偏ってるだけに過ぎません。なお、凶悪事件に逮捕されない者が多いのは別の罪状で逮捕済みのケースが多いからです。
http://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html
重大な自動車事故の厳罰化が進まないのは、刑事事件が処理される仕組みや法に対してあまりに無頓着な国民にも大いに原因があります。
以上