六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

『Vivy -Fluorite Eye's Song-』6話は何故こうも高純度で残酷なおねショタとして成立しているのか

普段、単独話数の感想って書かないのですが、なんて残酷で徹底されたストーリーなんだと思い色々と書いた次第です。

 

 

AIだから愛したわけじゃない

冴木博士が幼かった頃、母親と離れ離れになった彼は何らかの理由で入院し、看護AIとして働き始めたばかりのグレイスに抱きしめられ、子守唄を聴き、荒んでいた心を救われます。グレイス曰く、彼の母親は「海外で新しい家族と暮らしています」との事ですが、その真偽は分かりません(※)。その理由が何であれ、母親を失くした幼い彼にとって、グレイスの存在は絶対だったでしょう。『銀河鉄道999』で同じく母親を亡くした鉄郎がメーテルに抱いていた「母であり、姉であり、恋人でもある」という印象、その始まりの瞬間であったと言えます。相手がAIだったからではないんです(ちなみに、エヴァキャラデザの貞本さん曰く、「シンジとミサトさんの関係は『銀河鉄道999』の影響を受けているそうです)。あの瞬間に自分に親身にしてくれたお姉さんが偶然にも人間ではなくAIだっただけなんです。こんな出会いには抗えません。あの瞬間に彼の一生は決まっていました。

ただし、劇中で破壊されたK5を弔っていた様子から、AI研究者としての行持なのか、それともグレイスの似姿だから無碍に出来なかったのか、冴木博士のAIに対する複雑な心境が伺えます。

(※)「AIって嘘付けないんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、『イヴの時間』等の作品でも言及されている通り、ロボット工学三原則には「ロボットは人間に嘘をついてはいけない」というルールがそもそもありません。実際、本作でもディーヴァはユズカに嘘をついていました。もっとも、それ以前の問題として、AIが人間を殺傷可能な本作においてはロボット工学三原則そのものが機能していない可能性が高いですが。


少年は一生、憧れのお姉さんには追い付けない

AI(ガイノイド)の外観が成長しない本作であれば、やがて少年はお姉さんに追い付き、隣に並び、そうしていつか追い越してしまうだろうと予想するのが自然な流れです。ところが本作では徹頭徹尾、少年は決してお姉さんに追い付く事が出来ません。


成長した少年は研究者となり、初恋のお姉さんと同じ病院へ勤める事になります。彼は、憧れのあの人の隣にようやく一緒に並んで立てる、きっとそう思ったでしょう。でも、再会したお姉さんはドギマギしてテンパっているそんな少年をからかって、少年を忘れている振りをします。サプライズに慌てている少年をよそに平静な仕草で接しながら、遂に堪えきれずに笑い出し、少年はお姉さんにからかわれていたと気付きます。少年は「ひどくない?」と抗議しつつ忘れられていなかった事に安堵した事でしょう。少年はまだお姉さんに敵いません。

少年が婚約を申し出た時、彼は彼女の使命に準ずるAIとしての返答に困惑して、あるいは失望してしまいます。しかし、お姉さんはそうして少年が顔を背けたその隙に少年の指に指輪をはめて、「誰でも良いというわけではありません。あなただからです」と言ってはにかみます。先にプロポーズをしたのは少年の方なのに、ここでもまだお姉さんは少年をリードし続けます。

プロポーズが受け入れられ、少年がお姉さんの隣に並んで立とうかという次の瞬間、お姉さんはAI施設の管理AIに任命されこの世界とは隔絶されてしまいます。ようやく並んだその瞬間に、お姉さんは少年を置いていってしまいます。このまま、また憧れに戻ればその先の絶望を知らずに済んだかもしれません。でも、少年はやっぱりお姉さんを追い掛けてしまいます。

その果てに、お姉さんは少年を置いて先に逝ってしまいます。そして、少年はそれを追い掛けて、頭に銃口を当て引き金を引きました……。

 

運命でも宿命でも無い

グレイスは姉妹機であるディーヴァが歌う「sing my pleasure」が好きでした。もちろん、冴木博士も思い出のその子守唄を歌うグレイスを愛していたでしょう。

「宿命でも 運命でも どうぞ進んでいて」

ヴィヴィがグレイスの元へと向かう中で響く歌声、その歌詞ですが、冴木博士とグレイスに課せられた悲劇は宿命でも運命でもありません。正史において結ばれた二人は幸せに暮らした事でしょう。グレイスがメタルフロートの管理AIに任命された事実も、あの歴史の中ではおそらくありません。20年も経てばより優秀なそれ専用の後継AIが開発されているでしょう。ヴィヴィとマツモトが介在した修正史においてAI開発が技術の進歩に追いつかなかったが故に、あの時代で最も優秀(稼働時間と蓄積された経験、発揮されるパフォーマンスの総合値、という意味だと思われます)であると判定されたグレイスがそれに充てられてしまいました。これは運命でも宿命でもなく、誰かの行動の結果に過ぎません。

ところが、本作ではこの改変が無ければ、前述したような”少年がお姉さんを生涯追い続ける物語“が成立しません。本作において高純度のおねショタと残酷さは切っても切り離せない関係なんです。

 


以上

 

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「Sing My Pleasure (Grace Ver.)」