六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

※8/2追記『竜とそばかすの姫』における児童相談所の描写について

これだけはどうしても訂正しておきたいので感想や考察に先立って取り急ぎ記述します。劇中で描かれた児童相談所の出動に関するやりとりにおいて“児相の出動までにルールによって48時間を要する”かのような誤解を与える描写がありましたが、実際にはこの48時間というのは対処までに定められた最長時間です。


参考:児童虐待防止対策におけるルールの徹底について

https://www.mhlw.go.jp/content/000517278.pdf


ケースの緊急性や危険度によっては勿論こんな時間は掛けてはいられません。劇中のように、親が子に暴力を振るっている証拠があり、名前と居住地が判明しているならば尚更です。ちなみに、警察は家宅捜査に裁判所の礼状を必要としますが、児相の立入調査はこれを必要としません。

また、主人公の鈴が被虐待児の元へと単身向かう一連の場面ですが、これが彼女の母親が増水した河川の中洲に取り残された子供を助けて亡くなった場面に重ねられている事はわかりますし、それが人道や倫理にもとる行為だという事も理解しています。勿論、これがフィクションのアニメーションであるという事も。ただ、被虐待児の死亡事例は日本では年間50人にも上ります。つまり、それだけの児童が現実に殺されている実態があるわけです。そこに友人や大人達が彼女を単身向かわせるという描写は、やはりどう考えても危険です。演出意図として、兄弟を加虐していた父親と対峙するシーンが、仮想世界“U”の中でベルがジャスティスと対峙するシーンと重ねられている事は理解しています。しかし、その場合であっても、例えば”児相も現場に向かっており、鈴はその中で保護に立ち会った。その際に劇中のように父親が暴れ出し、彼女は兄弟を庇った“という描写にする事も可能であったハズですし、それならばテーマや演出意図を損なわずに一連の流れに説得力を持たせる事は出来たと思うのです。それこそ、後述の理由により“児相と連絡が取れなかった”とする事も出来たハズです。

なんだか批判ばかり書いていますが、私は総じて素晴らしい映画だったと思いました。だからこそ、この一連のシーンの引っ掛かりが尚更勿体無いと感じました。専門家の設定考証や監修を付けて欲しかったなと、そう思うのです。

 

※2021/8/2追記

私が本作のラストシーンの一連の描写を否定していると受け止めている方がいるようですが、私は「児童相談所に関する描写がその機能について誤解を与える内容になっている。虐待の現場に行かせるのは危ない」と言いつつ、彼女が現場に赴いた点そのものに関しては否定していません。傍観者である自分にはその権利が無いと思っていますし、その行動自体は道義的に否定されるべきでは無いと考えてるからです。それに、水難事故で亡くなった鈴の母親を誹謗中傷した人達の輪の中に入ろうとは思いません。虐待に第三者が安易に介入する事を推奨するわけではありません。しかし、これを“虐待されている児童には絶対に関わるべきではない”と読み換えて考えている方がいるようにも思われます。被虐待児に関わる資格とは何でしょうか?公権力でしょうか?不足の事態に備えられる暴力でしょうか?社会的な地位?発言力?金銭力?鈴が彼らに会うのを否と考えた方は、どこかで培われたこの辺りの基準を参照しているのではないかと思います。

また“虐待されている児童は◯◯の状態に陥りやすい”という傾向を“虐待されている児童が××の行動をするのはおかしい”と言い換えて、その型からの逸脱を批判している方もいるように思われます。被虐待児には遠方の友人に会う権利も親に逆らう権利も無いのでしょうか?その点に関しては鑑賞者の思い込みだと思います。その立ち直りについての描写が安易であるかどうか、それは当人ではない自分にはわかりません。しかし、そうした批判を投げる傍観者よりも、身も心も砕いて自分達に寄り添ってくれた誰かを信じる事はそんなにおかしな事でしょうか?

一つ言える事は、この物語はある種のファンタジーですが、一方で現実に、あなたやあなたの身の回りにいる家族や友人がSNSを介して被虐待児や加虐している保護者に出会う可能性はゼロではないという事です。映画の内容を批判して、否定して放り投げてしまうのは簡単です。しかし、例えばお子さんと本作を鑑賞した保護者の方は、もし、お子さんがSNSを介して、あるいは生身の現実で、そうしたケースに関わった場合にどうしたら良いのかを話し合うきっかけにしてはどうかなと思います。私の考えは上記の通りですが、お子さんはどう考えたでしょうか?

※追記終わり


最後に、これは映画の描写とは別にして(誤読されるのは嫌なので、監督批判でも無いと明言しておきます)言っておきたいのですが、虐待案件は既に年間で15万件を超えており、児童相談所の機能はパンクどころの状態ではありません。それに伴い、近年は児童相談所の人為的ミスが大きくセンセーショナルに報道される傾向が強まっています。そういった事故ケースに関しては改善される必要があると思います。……思いますが、そうした報道に感化されて児童相談所に苦情を入れる人達も少なからずいます。いいですか?機能がパンクしている児童相談所に直接ですよ?本作を観賞された方であれば分かると思いますが、それは独り善がりで身勝手な”正義“の行いです。もし、そうした”正義“によって児童相談所の機能がより一層麻痺し、届けられるべきだったSOSが届かなかった場合はどうなるでしょうか?あなたが保護されるべきだった子供を殺したんです。


以上

 

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