六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

『アイの歌声を聴かせて』 感想と考察

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公式サイト

映画『アイの歌声を聴かせて』公式サイト

https://ainouta.jp/


概要

公式サイトのリンクのメッセージから引用

「最後にきっと、笑顔になれる。ちょっぴりポンコツなAIとクラスメイトが織りなす、ハートフルエンターテイメント!」

 

あらすじ

「未来、たぶん日本。“AI”が試験運用されて間も無く、“人間型ロボット”(アンドロイド)が普及する前の時代。」


イヴの時間』との関係について

結論から言って直接的な関係は明言されませんでした。公開前は、詩音の苗字が芦森であった事から、吉浦監督の過去作『イヴの時間』に登場する重要人物「芦森博士」との関係を予想する声がチラホラとありましたが、博士や潮月は登場せず。ただ、世界観的に全くの無関係かは未知数なところがあり、今作の物語の舞台となった街は劇中の描写を見る限りにおいて、星間(AI開発企業)を中心として機能する学術研究都市/実験都市のように見受けられます。多くのデバイスがかなり柔軟な音声認識で機能していたり、農業やバスの運転に従事するロボット達がいたりと、これらは『イヴの時間』で描かれた技術とほぼ同様であると言えます。これらがいずれ街の外にも普及していく過渡期にある世界なのかもしれません。
イヴの時間』でのマサキとテックスとのエピソードに涙した人であれば、今作もきっと涙無しには観られないのではないかなと思います。

※『イヴの時間』では倫理委員会がアンドロイドに農業をさせる事に反対するネガキャンを展開していましたが、本作では同アングルカットでちょくちょく登場する農業ロボットが非常に良い味出してました。サトミを見守っているかのような印象を受けるロボットですが、物語の成り立ちを考えるとこれは本当にそうだったのかもしれません。君、実は魂あるでしょ?

また、本作は『イヴの時間』のような密室劇では無いですが、同様にして同アングルカットの演出をかなり挿入している印象です。上記の農業ロボットの他に、サトミの部屋と「今日も元気に頑張るぞ、Oh!」(実は詩音も一度口にしている)、電子工作部の火気厳禁の張り紙とゴミ箱に誤認されるサーバー、たまごっちっぽいデバイス等がそうですね。最初は意味がわかりませんがどれもこれも物語を成立させると上で重要な要素になってます。ちなみに、本作の脚本は吉浦監督と大河内さんと共同ですが、コンテ演出は吉浦監督単独です。


ミュージカル/歌唱シーンについて

まず何よりも土屋太鳳さんの歌があまりに上手過ぎました。序盤の自己紹介や詩音の最初の停止に至るまでの暴走シーンでは、歌が滅茶苦茶上手いのと共感生羞恥とのせめぎ合いで情緒がかなりグチャッとなります。が、前者はゴッちゃんのフォロー、後者はそろそろ限界ってタイミングで丁度差し込まれた正体バレと、そういう面にかなり気を遣った演出がされてたと感じました。あれ以上短いと物足りないでしょうし、長いとサトミに感情移入して観てる分には耐えられない。それ以降の歌唱シーンはメインキャラの前でしか歌っていないのでそういう感覚は無くなるんですよね。とりわけ、個人的に一番グッと来たのがサンダーとのジャズダンス(乱取り)のシーン。他のミュージカルパートと違い、このパートの詩音はサンダーを完全に掌の上で転がしてて、その妖艶な表情と仕草も相まって小悪魔っぷり全開。サンダーはあの世界における人類史上初のドリ系かもしれない。「付き合って!!」「良いよ」という何度目にしたかわからない古典芸能。閑話休題、何故ミュージカルなのか、という疑問が氷解する終盤の種明かしは凄くグッときました。唐突に思えた詩音の行動には全て理由がありました。

※ちなみに、サンダーとの乱取りの際に詩音が前述した電子工作部のバックアップサーバーに接続しており、お祝い会の時にサトミの部屋から映像ログを送信する布石になっています。これが後述のログの開示に繋がるわけです。


詩音の本当のマスターは誰か

サトミのお母さんが自信満々で送り出した割には詩音の言動があまりにおかしい……、という違和感は、当初観客の誰もが抱いた事と思います。母に似てるのか?と疑いつつも、自分は最初、支社長が運転手を勤めていた研究員とグルになって何かバグでも仕込んだのかと思いましたが(実際のところグルではあった)、そう考えると彼女の行動指標が「サトミの幸せ」に全振りされていてチグハグです。
最初に違和感を覚えたのは、最初の停止から再起動した直後、かなりエキセントリックな言動を見せていた一方でトウマの提案に対していやに素直に応じていた事です。この傾向はこれ以降も続き、これは彼がAIの仕様について適切に理解しているためにデバッグを適切に行えている事が理由かと思っていました。しかし物語の中盤、学校をサボってみんなでサトミの家でサンダーの初勝利祝いパーティをしていたシーンで、この違和感がどうやら違和感では無かったとわかりました。詩音がトウマの質問に対して「それは命令ですか?」と聞き返したこのやり取りで、彼女のAIを突き動かしている実際の命令系統が星間ではないという確信が持てました。そして、詩音の記録していたバックアップログが開示され、彼女の行動指標の理由が明らかになる最初の一ページ目。鏡に映った詩音の最初の姿はあのたまごっち型のデバイスでした。詩音の本当のマスターは、彼女の人格の基礎を構築したトウマだったんですね。

※このプログラムがガイノイドの躯体を制御するのはおそらく不可能なので、劇中の詩音はサトミのお母さんが構築したAIに詩音としての人格が相乗りしているハイブリッドであると思われます。


おでここっつん

想いを通わせた女の子同士が前髪を絡めながらおでこをこっつんと合わせたらそれはもう尊さが爆発してるんです。古事記にもそう書かれている。『ストライクウィッチーズ』のエイラーニャとか『放課後のプレアデス』のあおすばとか『アサルトリリィ』のゆゆりりとかがやってた事で有名なおでここっつんですよ(それ描いたの全部同じ人じゃん)。



そんな単純な話ではない、という事を強調した上であえて言いますが、本作で描かれた詩音とサトミの関係は、幼少期からずっとサトミの事を想って見守り続けていた詩音の片想い百合の成就としての側面も持ち合わせたクライマックスであったと思います。百合というより文字通りの愛ですけどね。ついでに、以前別作品の感想に添えた「百合だのヘテロだのとかいう限定的なタグ付けは強力な物語の前では何の意味も為さないし、逆に言えば、強力な物語の中でならそれらは両立もする」という言葉を添えておきます。

※追記 その女の子がある男の子を好きな場合は百合が成立しないという主張について。まあわからなくもないですが「さくらと小狼が両想いなのをわかった上でそれでも知世ちゃんはさくらが好き」という強大な事例があるので、その許容範囲に関しては今までに履修してきた科目の違いに因るものかなと思います。
また、AIに性別はあるのか?AI百合というジャンルが成立するのか?という疑問について。以前、性別はその人の身体、精神、心理の各々のパラメータによって決定される複合的なモノであると記述しましたが、AIもこれと同様であると考えます。詩音は見た目から分かる通り所謂雌型(ガイノイド)であり、その嗜好(参照される価値観)は少女的です。「では精神は?」という問いに関しては、これは前述の通り詩音のAIの基礎はトウマによって構築されたモノです。かなり飛躍した、というより捉えようによっては際どい事を言いますが、自分以外の男の子が好きな女の子と仲良くなっていく、親密になっていくって想像するとちょっと嫌じゃないですか?だからトウマの構築した詩音の精神性は必然的に女の子だと思います。
ただし、別に百合だから感動したわけじゃないんですよ。それはある種の嗜好の問題であって、私は、ヒトとAIとの関係性については杉田智和ボイスの多分男っぽい支援AIとレド少尉との交流にも感動しましたし、斎賀みつきボイスの丸っこい性別どっちかわかんない育児ロボットとマサキの交流にも感動しました。必要なのはガワじゃなくて物語です。


「アイの歌声を聴かせて」の持つ意味

詩音の基となったプログラムに人格を与えたのはサトミの幼馴染みトウマでした。それに至る経緯ははっきりと明示はされませんが、おそらく、諍いの絶えなかったサトミの両親、その家庭の不和を案じて(終盤で酔い潰れたサトミのお母さんの言動にその片鱗が見え隠れしてます)、トウマが考案したサトミの側にいてくれる友達としての設計思想こそが詩音の原型に与えられた動機付けです。最初は文字だけがモニターに表示されていましたが、これに対してサトミは「文字だけじゃお話してるのとは違う」とリクエストして会話機能が実装されました。そして、ディズニーちっくな劇中劇「ムーンプリンセス」を一緒に観る中でサトミから発せられた願い事こそが、詩音を突き動かす動機付け「アイの歌声を聴かせて」でした。物語の始まりは自分達だったっていう物語の枠組みって、その打開と解決に主人公達が全力で取り組む理由と動機付けとなるので物語として非常に強力だって思いますし、あの瞬間から感情移入の深度が変わりました。
考えてみると、これまでに自分が触れたAI作品におけるAIの仕様というのは、無数のネットやデータベースにアクセス出来る事を強みとして持っていたように思います。現実では”AIのべりすと“といったモノが流行っているようですが、あれもおそらくネット上のデータベースを参照した自動生成でしょう。この点に関しては詩音も例外では無く、彼女は劇中に登場した無数の電子機器やAIに接続し、コミュニケーションを取っています。しかし、彼女が行動のために参照していたのは常に「ムーンプリンセス」のミュージカルでした。自分が幸せにしたい相手の一番好きなモノ、ただそれだけを。

 

寓話としての『アイの歌声を聴かせて』

#アイの歌声を聴かせて 寓話『アイの歌声を聴かせて』Prologue - ker - 六連星手芸部員 - - pixiv

思った以上に長くなったのでpixivに投稿。何を言いたいかというと、高度に発達した科学は魔法と区別が付かない、ならば『アイの歌声を聴かせて』の骨子がディズニー映画のようなファンタジーに寄るのは必然だという事です。


※追記

やっぱプロは知識量や深度が違うなぁ……。

 

以上

 

映画『アイの歌声を聴かせて』 オリジナル・サウンドトラック

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イヴの時間 劇場版』