六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

Pork and Tomato Stewed hamburger steak for Dinner

このまちで暮らす私たち魔法少女やまぞくのボスであるシャミ子は、側から見るとお世辞にもハイスペックとは言い難い……、いや、むしろ色々とポンコツの類に入るのかも。今だって“桃は私が見てないとすぐに宿題をすっぽかすんですから”なんて言って一緒に勉強を始めたハズなのに、いつの間にか私がシャミ子の宿題を見てあげるいつものお決まりのパターンをなぞっていた。まあ、そこが可愛いんだけど。頑張り屋さんだし。それに、勉強や運動が苦手なのだって、きっと長かった入院生活の影響が大きいと思う。実際、まちの危機に対しては機転が効くし、私の設定するトレーニングにだってちゃんとついて来てくれてるし。シャミ子は出来る子なんだよ。そして私もポンコツ呼びしておきながらなんだけど、そんなシャミ子にどうしても敵わない事があった。

「桃?どうしたんですか、さっきから黙って私の顔を見て。その……、そんな見つめられると照れちゃ「シャミ子、お願いがあるんだけど」
「え?あ、はい。何でしょうか?」

そうやって食い気味に言ってしまってから、もう少し照れてるシャミ子を拝んでおけば良かったかなと少し後悔した。どこからともなく柑橘系魔法少女の“そういうところよ?”という台詞が聞こえてきた様な気がする。そうして改まってしまったシャミ子に対して、そこまで深刻な話をするわけでもないんだけどなと一瞬だけ考えた後、いやいや、ひょっとしなくても無理難題を突き付けようとしているのかもしれないと思い直し、いくらか返答に間が開いてしまった。

「桃?」

そうして小首を傾げる愛くるしいまぞくに向き直り、私は、前々からいつか自分で向き合わなければいけないと考えていた事を告げた。

「あ、えっと、えっとね……。私に、料理を教えて欲しいんだけど……」
「………………え?」

 

『Pork and Tomato Stewed hamburger steak for Dinner』

 

シャミ子はたっぷりと時間を掛けて一言発した後に固まってしまった。そして気が付くと、じわりとまぞくの目に涙。

「え?待ってシャミ子、なんでこの流れで泣いてるの!?」

シャミ子を困らせるお願いだとは思ったけど、悩ませるまでならともかくとして流石に泣かれるのは予想外だ。勿論私は自分のメシマズを自覚してはいるが、幾らなんでも動揺し過ぎではないだろうか。

「なんでって……、だって、お米も炊けない桃が料理を教えて欲しいだなんて、ひょっとしなくても好きな人でも出来たとかそういう話じゃないんですか?きっと手作りのお弁当を作ってあげたいとか、サプライズの可愛いお菓子で女子力をアピールしたいとかそういう」
「無いから。違うよそうじゃない」

いや、無いこともないのか。それにしても最近どこかで聞いたような話だ。いつものグループで回し読みされてる少女漫画に描かれてた展開そのままじゃないか。

「その、シャミ子にはいつもご飯を作ってもらってて、本当は私が美味しいハンバーグを作ってあげるって約束だったのに、このままじゃいつまで経っても宙ぶらりんのままだと思って、それでその……」
「それって私のためって事ですか?」
「そ、そうとも言うかな?」

自分で言ってて顔が熱いのがわかる。まあ、それでシャミ子の表情がぱぁっと明るくなったのだから良いのだけれども。

「はっはっは!なんだそれならそうと早く言って下さいよっ!!さてはキサマ、ようやく私の眷属となる決心が着いたのだな?それを回りくどい言い方して憂いヤ「あんまり調子に乗ると」
「ごめんなさいでした!!」

良かった。また変な誤解が拗れたらどうしようかと思ったけど、すぐにいつもの調子に戻ってくれた。私が胸を撫で下ろしていると、シャミ子は再び可愛らしく小首を傾げ、頬に人差し指を当て思案するポーズを見せながら疑問を投げて来た。

「でも、こーゆーのって普通、誰か別の人に聞いて本人にはサプライズにしませんか?例えば私のおかーさんとか」

もちろん、それは考えなかったわけではないし、さっきの少女漫画の展開もそうなっていたわけだが、私には今お願いしている選択肢の方が魅力的に見えた。

「だって、それよりもシャミ子と一緒に料理したかったから」
「う、憂いヤツめ……」

今度はシャミ子の顔が赤くなっていく。こういうのをハッキリ口にするのには勇気がいるが、それよりも照れたシャミ子を眺めているのはなんだか気分が良い。

「と、とにかく、桃が苦手な料理に向き合うというのなら私も本気で付き合いますっ!!まずは何が失敗の原因か確かめたいので、前に桃が作ったハンバーグのレシピを書いて見せてもらえますか?」
「レシピって、材料だけじゃなくてどのくらい混ぜるとかどれだけの時間焼くとかそういうのも?」
「はい、なるべく細かくお願いします。……って、せっかくやった宿題のプリントに書いちゃダメです!!はいっ、これ使って下さい」

私はそう言って手渡されたチラシの裏に、以前作ったハンバーグのレシピを書いていった。それにしても、いつの間に私の部屋にメモ用のチラシの束が置かれていたんだろうか?そういえばシャミ子の私物が部屋に色々と増えてる事に最近は違和感が無くなっていた。シャミ子は記入途中のレシピを覗き込みながら“ぎゅ、牛挽肉!!”と感嘆したり、“うーん、レシピじゃないとすると……”と唸ったりと合いの手を入れていた。この調子なら書き終わると同時に採点も終わっているだろう。

「どうかな?」
「そうですね。私がおかーさんに教わったレシピとは少し違いますけど、基本は押さえてある感じだと思います。だから、えーと……、失敗の原因はレシピじゃなくて実際の調理です。その……、卵を割るといつも光るんですか?」
「うん……、これってよくある失敗なの?」

そんなわけがないだろうとは思いつつ、一応確認してみた。

「そんなわけないじゃないですか」

予想通りの答えが返って来て少しヘコんだが、シャミ子は続けてこうも言った。

「でも、魔法少女あるあるなら分からないですよ?料理って結構思い込みとか勘違いで失敗しがちですし、魔法少女独特のそういうのがあるかもです。失敗から変な癖が付いてるとか、何か思い当たる事はないですか?例えば、私はピーラーで指をざっくりしちゃった事がありまして、しばらくの間、怖くて野菜の皮が剥けない事があったんですけど」
「でも私、怪我とかしてもすぐに治るから」
「またそーゆー事を言って……、身体が平気でも心が傷付く時だってあるじゃないですか」
「身体が平気でも……」

心が傷付く……ーーー

 

 

「ーーー桃ちゃん!!大丈夫!?」

“バリン!!”という大きな音に姉が振り向いた時、私は血が滴る掌を茫然と見つめていた。私が魔法少女になってしばらく経った頃、私は強くなっていく力を上手く制御出来ず、何かを壊してしまう事がしばしばあった。それは当初、お絵描きに使う色鉛筆を折ってしまったり、ままごとの人形をひしゃげさせてしまったりする程度の被害で済んでいたが、それに気付いた姉と一緒に力をコントロールする練習は続けていた。しかし、この日ばかりは壊した物が悪く、私が姉の料理を手伝おうと計量カップを手に取った時、耐熱強化ガラスで出来たそれは私の掌の中で脆くも粉々に砕け散った。

「お姉ちゃん……?うん、ちょっと切っちゃっただけだから」
「ちょっとって……」

そう言って私の手を取り治療魔法を使う姉の顔は明らかに青ざめて見えた。粉々に割れたガラスでズタズタになった掌の傷の深さは、本来であれば、おおよそ幼い子供が平然としていられる範囲を超えていた。

「ありがとう。でも、すぐに治るから大丈夫だよ?」
「身体の傷がすぐに治るからといって、傷付いても大丈夫という事にはならないのよ?」
「……よくわからない」
「身体は平気でも心が傷付いて平気じゃない事もあるの」

当時は姉の言葉の全てを理解する事は出来なかったが、少なくとも私の事で姉が心を痛めている事はなんとなく理解出来た。

「桃ちゃんにはまだ難しい話かもしれないわね。でも、またこういう怪我をしないように練習を続けていこうね」
「うん……」

私の心中を察してか、姉はそれ以上話を広げる事は無かった。私は姉との訓練のおかげで、魔法少女の力と共生しながら日常生活を送れるようにはなったが、それから、私が姉の料理を手伝う機会は訪れなかったーーー。

 


「ーーーそんな事があったんですね……」
「うん、でも私、本当に怪我した事を今でも怖いと思ってるのかな?」
「どうしてそう思うんですか?」
「それは……」

それは、魔法少女としてもっと酷い怪我だってしていたし、当時から痛覚に耐性があった身としては、あの程度の怪我くらいで料理がトラウマになるとは思えなかったからなのだけれど、こんな事を正直に話してしまったらシャミ子はなんて言うだろうか……?私が押し黙っているとシャミ子は思いも寄らない事を口にした。

「桃、片手ダンプの時だって、ホントは怪我して痛かったですよね……?」
「え……?気付いてたの?」
「やっぱり怪我してたんですね……」

しまった……。気持ちのガードが緩くなったところにカマにかけられてしまった。

「わざわざ心配させるような事を言う必要は無いかなって……」
「怪我、酷かったんですか?」
「いや、軽い捻挫程度だったけど……」
「………………」

どうにかやり過ごそうと言葉を濁してみたものの、気が付いた時にはそう言いながら少し視線が泳いでしまっていた。上目遣いのシャミ子の無言の圧力が怖い。そして何より涙目になるのはズルいのではないだろうか。

「……ごめん、ホントは手首折れてた」
「折れ……、ごめんなさい、私、それなのにボカボカ叩いたりして……。助けてもらったのに、本当ならお見舞いとか身の回りのお世話とかしなきゃいけなかったのに……」

根負けして大人しく白状してはみたものの、シャミ子の涙腺はいよいよ決壊してポロポロと涙が溢れていた。だから言いたくなかったのにと後悔しつつ、私達の関係って当時はそういう間柄じゃなかったよねと心の中で少し苦笑した。ただ、それはそれとして何かフォローしてあげないと居た堪れない。

「あ、それは大丈夫。シャミ子にポカポカされてたの、ダメージは全く入ってなかったから」
「それはそれでひどい!」
「まあ、その時にはもう骨もくっついてたから、本当に大した事は無かったんだよ」

軽口を挟んだ事でえぐあぐしていたシャミ子は幾らか落ち着きを取り戻した。なんだか誤魔化してしまった気もするけど。

「だったら、話してくれても良かったのに……」

前言撤回、誤魔化せてなかった。

「だって、話したらシャミ子はきっと傷付くから……」

それで黙ってて結局シャミ子を泣かせてるんだから本末転倒だ。しかし、意外にもシャミ子は今度こそ完全に落ち着き払った様子で涙を拭い、何かを悟ったような慈しむような、そういう柔和な表情でこう言った。

「なんだ、もうわかってるんじゃないですか」
「どういう事?」
「身体が傷付くのと心が傷付くのは別だって」

あ……。

「それに、さっき桃は言ってましたよね?“怪我した事を今でも怖いと思ってるのかな?”って。つまり、その時はやっぱり怖かったんじゃないでしょうか?」
「そう……、かもしれない。そっか、私、ちゃんと怖かったんだ……」
「桃?」

私は魔法少女についての生々しい話を思い出し、またシャミ子を心配させるかもしれないと一瞬口にするのを躊躇した。でも、今の私がそうはならない事はなんとなく伝わってると思いそのまま話す事にした。

「実は、魔法少女でいる時よりも魔法少女を辞めた後の方が事故に遭って死んじゃう人が多いって聞いた事があったんだ。きっとみんな、それまで身体が平気だったから、怖いって感覚が麻痺しちゃうんだと思う」
「そう、ですね……。怖いとか痛いとか、そういうのって身を守るための大事なサインですから。失くしちゃダメですよ?」

シャミ子が言うと重みが違うな。でも、本音を言えば出来ればシャミ子にはもうそういう目には遭って欲しくない。

「うん、失くしたりしないよ。ねぇシャミ子、私、ちゃんと料理出来るようになるかな?」
「さっき言ったじゃないですか。桃が料理に向き合うなら本気で付き合う、って。桃の不思議料理の原因ですけど、さっきの話で合点がいきました。多分、リコさんの料理の延長だと思うんですよ」
「どういう事?」
「つまりですね、桃はきっと、もう怪我しないように、力を入れ過ぎないようにと逆に力み過ぎて、それで食材に魔力を込めてしまってるんじゃないでしょうか?」
「それで卵が光ったり、油から花火が上がったり、もやしが盆栽になったりしてたの?」
「なにそれ知らない見てみたいんですけど!」

シャミ子の目がフレッシュピーチハートシャワーを期待する時と同じキラキラを放っていた。多分、ゲームに登場する魔法使いのイメージか何かと一致した事で琴線に触れてしまったのだろう。私、ギャグでそうしてるわけじゃなくて、一応気にしてるんだけどな……。

「ごめんなさいでした……」
「あ、伝わった」
「と、ところで、桜さんはその時何を作ろうとしてたんですか?」

あ、ごまかした。まあ、私も人の事は言えないんだけど。だから、これでおあいこという事にしておこう。

「え?そうだね、確か煮込みハンバーグだったような気がする……」
「なるほど……。ハンバーグは桃の目標でもあり苦い思い出でもあるんですね……。それでも作ってみたいですか?」

言われてみると確かにそうだけど、今は一人でもがいてた時と違ってシャミ子が側に付いててくれているから。

「うん、やってみたいと思う」
「だったらシャミ子お姉ちゃんに任せて下さい!」
「サイズ感が足りないんだけど」
「それは前に聞きました!意気込みの問題ですよっ!!兎にもツノにも、そうと決まれば買い出しですね。お買い物しながら作戦会議しましょう」
「うん、そうしようか。ねぇシャミ子」
「なんですか桃?」
「私、シャミ子に美味しいハンバーグをご馳走するから」
「はいっ!楽しみにしてますね!それじゃあ行きましょうか、桃」

そうして差し出された小さな手をつなぎ、今日も私はシャミ子と一緒にこのまちを歩いていく。

 

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