六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

人魚はなぜ、少女の守護天使になったのか

「ーーーこっちおいで」
「ん……」

結梨がいなくなって、梨璃が酷く落ち込んで……。一柳隊の皆も、もちろん自分もアンニュイな気持ちを抱えて、こうして誰かに寄り添っていたかった。

「のぉ、百由様……」
「なぁにグロッピ」
「あやつは、結梨は……、どうして一人であの海の向こうに逝ってしまったんじゃろうか……?」

明確な答えを得られると思っていたわけでは無かったが、そう聞かずにはいられなかった。アンニュイな自分の心の内を整理したかった。ところが百由様は、表情を曇らせ俯きながらそれに応えた。

「原因は……、私のせいよ」
「え……?」

それは思ってもみなかった言葉だった。

 

『人魚はなぜ、少女の守護天使になったのか』

 

「百由様……?藪から棒に何を言っておるのじゃ?百由様は理事長代行と一緒に結梨のために動いてくれておったではないか」

ヒュージとして政府やGEHENAに処分されかかっていた結梨がヒトであると証明したのは他ならぬ百由様だった。それが一体どうしてそんな話になるのか。

「違うわ。原因はもっと前よ」
「もっと前?」
「競技会で……、エキシビションマッチで、結梨ちゃんに勝たせてはいけなかったのよ……」
「何を……、言って」

それはきっと、良くない話に違いなかった。

「あのヒュージロイドは夢結たちが三人がかりで倒したヒュージを模して作ったものよ。本来、リリィが一対一で勝てる相手じゃ無かったわ。でも、結梨ちゃんは生まれ持った才能と強さでそれを成してしまった。何よりも集団で、レギオンで戦う必要性を伝えなきゃいけなかったのに。あぁ私……、梨璃さんに何て言って謝ったら……」

百由様はそこまで一気に捲し立てた。早口なのはいつもの通りだが冷静さと余裕が足りない。

「それなら百由様のせいではないぞ。予定通りわしが参加してコテンパンにされておれば良かったのじゃ」

それを聞いた百由様の表情には後悔がありありと見てとれた。意地の悪い言い方だとは思ったが、こうでもしないと考えを改めてくれそうになかった。

「え……?違う、私、そんな事……、そんなつもりじゃ……、グロッピのせいじゃ……」
「落ち着くのじゃ百由様」
「だって!!」
「百由様、ん……」

わしがおさげを乗せた膝をポンポンと叩いてみせると、百由様はまるで条件反射のようにおずおずと横になり、借りてきた猫のように大人しく膝枕された。

「落ち着いたかの?」
「うん、いいにおいがする……」
「なっ……、に、を言っておるのじゃ……」

目を閉じて小さく鼻をすんすんさせながら百由様が言った。夢結様といい梨璃といい、この学院では髪のにおいをかぐという行為がある種のスキンシップのスタンダードなのだろうか?楓も梨璃にバレないように事に及んでいるのを見た事があるし、神琳と雨嘉が自然体で互いにそうしている情景にアテられたのも一度や二度ではない。ただ、一柳隊の中で一番猫っぽい梅様と鶴紗が猫を吸っているのはよく見かけるが、髪のにおいをかいでいるのは見た事が無いあたりよくわからない。二水は……、あのノートに何が書かれているのか考えるのは今はよしておこう……。

「のぉ百由様、言った通りじゃ。百由様だけのせいではないのじゃ」
「そんな事……」
「それにの……、もし、さっき百由様が捲し立てた話を皆の前でしたらどうなると思う?」
「どうって……」
「わしの代わりに結梨をエントリーさせたのは……、梅様じゃ」
「あ、あぁ……」

百由様は両手で顔を覆って声にならない声を上げた。わしはそんな百由様の頭を撫でながら言葉を続けた。

「それに、わしや梅様だけではない。あの場では梨璃や夢結様も、学院の皆が結梨の背中を押してしまったのじゃ。百由様だけの責任ではない」

その歓声が後にどんな悲劇を引き起こすのか、あの時は誰もそれに気付かずにあの場の空気に飲まれていた。

「その理由なら……、わかるわ。おそらく、結梨ちゃんのカリスマのレアスキルよ」
「カリスマ?結梨はフェイズトランセンデンスと縮地のデュアルスキラーではなかったのか?」
「あの子のヒトとしての要素は梨璃さんに由来するわ。リリィとしてのスキラー数値も同じ。にも関わらず、あのヒュージに唯一デュエルで対抗出来るフェイズトランセンデンスと縮地のデュアルスキラーなんて都合の良い偶然はおかしいのよ。おそらく、あの子が望むならあらゆるレアスキルを体現出来たでしょうね……」

そういえば結梨は、わしらのにおいから感情を読み取っていた。あれは感知系のレアスキルから零れ落ちたモノだったのかもしれない。

「私、前に言った通り結梨ちゃんの事と一緒に梨璃さんのレアスキルも調べていたわ。あの子たちの事、もっと早くわかっていたら……」
「そう来るか。百由様は強情じゃの」
「うん……、でも梨璃さん達にこの話をしちゃいけない事はわかったわ。本当ならグロッピにも……」
「百由様が機密事項をわしにうっかり話してしまうのは今に始まった事ではないがの」
「それとこれとは」
「同じじゃ」

本人に自覚が無いのが殊更にタチが悪いが、百由様が抱えている案件の量も質も、側から見れば個人で扱えるキャパシティをとっくに超えているのは明らかだった。

「さっきの返事じゃが、わしは、百由様の事を心配しとる。何でも出来るからといって、そうやって何でも一人で抱え込んでしまうのは百由様の悪い癖じゃ。だからせめて、わしには支えさせて欲しいのじゃ。そうでないとまるで…まるで結梨のように突然消えてしまいそうで怖いのじゃ……」
「私、そんなに心配かけてたなんて。これじゃ立場があべこべね……」
「そうかの?わしらはそんなあべこべな姉妹をずっと見てきたではないか」

あの二人を見ていると、たまにどっちが姉でどっちが妹なのかわからなくなる。

「それも……、そうね」
「じゃろ?」
「ねぇグロッピ……」
「何かの?」
「もし、もし良かったら、私、と……」

髪を指先で梳きながら撫でていると、百由様は何か言いかけたまま瞼を閉じ、やがて静かに寝息を立てていた。

(お疲れ様じゃ、百由様。目が覚めたら、続きを聞かせてもらうからの?)

そうして百由様が寝静まった後、指先で掬った髪は少し鉄と油のにおいがして、自分には、それが心地良かった。

 

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