六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

猫と微睡む

講義の合間にいつもの木陰で二人で寝転がり猫達と昼寝をする、そんなありふれた日常は以前より尊いものに感じられた。競技会から、そしてあの日からまだ日は浅いのに、ここでこうしているのは随分と久し振りな気がした。

「なぁ、梅先輩」
「んー、なんダ?」

片手をヒラヒラと泳がせて猫と戯れながら、いつもの気怠げな感じに幾らか真剣なニュアンスを織り交ぜて鶴紗は言葉を続けた。

「前にここでこうしてた時、“梅には心配なヤツがいたんだけど、もう大丈夫そうだから、梅が見てなくていいかナ”って、そう言ってたじゃないですか」
「ああ、言ったけど、それがどうかしたのカ?」
「心配なヤツってのは夢結様の事でいいんですよね?」
「ん……、まあ、そうだけド……」

私は質問の意図を汲み取る事が出来ず、言い淀んだ返答をしてしまった。鶴紗はあの時から相手が夢結だと気付いていただろうし、その上で素っ気無い感じで軽く流していたハズだ。にも関わらず、改めてこの話を掘り返す理由はなんだろうか?

「じゃあ今は?」
「え?」
「今は、私が心配って事ですか?」

そう口にした彼女の瞳が、真っ直ぐに私を見据えていた。

 

『猫と微睡む』

 

「お前、それ自分で直接聞いちゃうのカ……?」
「いや、答え難いならいいですけど」

なんだか告白を促されているようで妙な気分になった。正直なところ、答えとしてはYESになるわけだけど、そういう聞き方をされてしまうとどう答えたものかわからない。

「私が……、GEHENAの強化リリィだって知ってたんですか……?」

私が答えに窮していると、彼女は丸くなって眠る猫の背を撫でながら、思い詰めたような憂いを帯びた瞳でそう言った。

「まさか、ずっと気にしてたのカ……?」

私の言葉に、彼女は猫を撫でる指先を見つめながら小さくコクンと頷いた。気に掛けていたつもりでいたのに、先輩失格……、だな。

「学園がGEHENAからリリィを保護してるのは知ってたヨ。でも、それが誰かまでは知らなかった。梅が鶴紗が気になったのはそんな理由じゃないゾ」
「だったら、どうして?」

俯いてた顔を上げて彼女が言った。正直、この雰囲気の中で本当の理由を話すのは気が進まない。

「梅が何言っても怒るなヨ?」
「まあ、私から聞いた事なんで」
「じゃあ言うけド……、鶴紗を見てたらサ、なんだか猫っぽいなと思って」

それを聞いた彼女の顔が段々と引き攣っていくのを見て、やっぱり言わなきゃ良かったと私は少し後悔した。

「……は?……猫?」
「だから怒るなって言ったじゃないカ」
「別に怒ってるわけじゃないですけど……」

どちらかと言うと呆れている感じらしい。“私は今まで何を一人で気にしてたんだ……?”と、脱力して猫と戯れる彼女の顔にそう書いてある。

「いやいや、誤解しないで欲しいんだけどサ、猫可愛がりしたかったとかそんな単純な理由じゃないからナ?」
「じゃあ聞くだけ聞きますよ」
「お前、それ、仮にも先輩に対してちょっとひどくないカ?」
「そっすか?」

正直、当たりの強さには少しへこんだが、先輩失格の烙印を捺されないだけマシだと思っておく事にした。私は、“これは梅の持論ナー”と前置きして話を始めた。

「猫の集会の時も言ったけど、猫ってこっちからグイグイいっちゃダメなんだヨ。猫が“居ても良いよ”って言ってくれる距離……、ニャーソナルスペースっていうんだけどサ。その外側から根気強く話しかけたり待ってたりすると、餌付けなんかしなくたって段々と猫の方からその距離を狭めてくれるんだヨ」
「ニャーソナルスペース……。初めて聞いた」
「まあ、それは梅が勝手に言ってるだけだからナ」
「えぇ……」

感心したり困惑したり、コロコロ変わる彼女の表情を眺めるのは面白かったが、それを猫と遊んでるみたいと言ってしまうと今度こそ怒られそうだったので言わないでおく事にした。

「まあ、言い方はともかく、猫ってその辺敏感だしわかりやすいんだヨ」
「それはわかりましたけど、じゃあ私が猫みたいっていうのは……」

そういえば、鶴紗はあの時みたいな姿を見せる事も無くなったなと感慨に浸りつつ、私は答えを返した。

「梨璃にレギオンにカンユウされてた時にサ、威嚇しながら逃げてたよナ?」
「ええ、まあ……」
「あの時の、誰かが側に寄って来た時の怯え方とかそういうのがサ、猫っぽいなって。本当なら誰かと仲良く出来るハズなのに、本能で怯えてるみたいだなって、そう思ってサ。だから、気になったんだヨ」
「そう……だったんですか……、あれ?じゃあ梅先輩はどうやって私に?」

彼女は首を傾げながら言った。どうやら自覚は無いらしい。

「梅はサ、何もしてなかったんだヨ。来る日も来る日も、猫と一緒にここで寝転がってたらサ、あの日、鶴紗が自分からニャーソナルスペースを狭めてきたんじゃないカ」

彼女はそれを聞いてポカンとしていたが、やがて何かに気付いたらしくハッとして照れた様子で頬を染めた。私が鶴紗を気に掛けたのと同じ様に、鶴紗が私を気にして自分から殻を破っていた。

「梅先輩のその感覚の方が猫っぽいですよ」
「えー、そうかナー?」
「でも、あ……、あり、ありが……」

彼女はそう言いかけて、朱の入った頬を更に赤くして顔を背けたかと思えばコロッと転がり、私のお腹にポフっと頭を乗せてきた。

「おお!?急にどうしたんだヨ?」
「にゃ……、にゃぁ……」

そっぽを向きながら背中越しに鳴き声を上げる後輩に”お前、ホント、そういうところ可愛いナ“と、そう言おうとして止めておいた。なんだか、そうすると引っ掻かれそうだったから。

お腹の上に寝転がる大きな猫の頭を撫でてやると、やがて彼女は他の猫達と一緒にすやすやと眠りに就いた。

 

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