六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

貴女に感謝の花束を

『貴女に感謝の花束を』

 

 

「一体全体今日はどうしたんですの?」

私はドーム状のガラスの花瓶にルーンを刻む手を止め、作業机を挟んで対面に座っている汐里さんに苦笑しながら声を掛けた。より正確には、両手で頬杖をついてニコニコしながら私を見ている汐里さんに。普段であれば彼女も何かしらのモノ作りに励んでおり、そうして互いに黙々と作業を進めるこの場の空気に私は心地良さを感じていた。ところが今日は幾分様子が違っていた。

「いえ、もう少しで完成だと思ったら、なんだか妬けちゃうなって思って」
「汐里さんにそう言って頂けるなら作った甲斐もあるというものですわ」

梨璃さんと夢結様が由比ヶ浜ネストを消滅させて帰還してから暫く経った頃、私はある人に贈り物をしたいと言って再びそうさく倶楽部に足を運んでいた。選んだ題材はプリザーブドフラワーで、簡易的なモノであれば一日二日あれば作ることも可能ではあったが、今回は試したいこともあり凝った作りを選択していた。

「でも、楓さん、訓練やレギオンの集まり以外は殆どそうさく倶楽部に通い詰めですよね?流石に何かしてるって気付かれてしまうと思うんですけど」
「気付かれるも何も、梨璃さん達ならわたくしがここに出入りしてる事は知ってましてよ?何かありましたらここに連絡を、と、一柳隊の皆さんにはそう伝えてありますもの」

私の返答が意外だったのか、汐里さんは頭にクエスチョンマークを浮かべて困惑していた。

「プレゼントを渡す相手に事前に知られてしまってはサプライズにならないのでは?」
「それなら心配要りませんわ。わたくしがこの花束を贈る方ですが、その方は自分がその相手だとは微塵も思っていませんもの」

そうした方が都合が良いと思ったので、私はプレゼントを贈る相手のことをここに至るまで汐里さんには正確に伝えていなかった。

「ひょっとして欧州の御家族に贈るためでしたか?私てっきり梨璃さんに贈るためだとばかり」
「わたくし、そんなに梨璃さんべったりに見えてますの?」
「見えてるも何も楓さんが自分で公言されてることですよ?まあ、私はそれだけじゃないって知っていますけど」

そう言って誇らしげにしている汐里さんが何だか可笑しくて私は噴き出すのを堪えた。と、同時にお喋りで中断していた作業を再開した。

「それにしても、マギを流し込んで花の時間を停滞させるなんてよく思い付きましたね」

そう、私は連日、花の加工ではなく花瓶に停滞のルーンを刻む作業に明け暮れていた。プリザーブドフラワーの本体となるカスミソウは既に加工の最終段階にあり、花瓶が完成するのに合わせて乾燥させているところだった。

「梨璃さんと夢結様が行方不明になっていた時のことをヒントに……、まあ、実際には術式の構築は百由様の協力による部分が大きいですけど」
「救命コクーンの中とはいえ、御二人がどうして九日間も漂流して無事でいられたか、ですか……」
「ええ、御二人ともあの中では少しの間眠っていただけってそう言うんですもの」
「この制服にはそこまでの機能は無いですよね」

にも関わらず、二人は私達の心配をよそに討伐に発った時と変わらない様子で帰還した。まあ、あられもない姿である点を除けばだが。

「それは梨璃さんが、夢の中であの娘に……、結梨さんに会って、それで送ってもらったってそう言ったんですの」
「結梨さんに……」
「ええ、きっとあの娘が何かしたんですわ」
「まるでリリィの守護天使、ですね」
「本当にあの娘が天使になっているのなら、今度顔を合わせた暁には頭の輪っかと背中の羽を毟り取って人に戻して差し上げますわ」

それを聞いた汐里さんはポカンとした表情を浮かべていたが、ややあってクスクスと笑いながら言葉を返した。

「またそんなことを言って、楓さん本当は優しいのに」
「いいえ、甘やかすのはわたくしの役割ではありませんわ」

私がそう言うと汐里さんは神妙な面持ちで応えた。

「そう、ですね……。でも、それだって優しさですから」
「なんだか損な役回りですわ……。って、わたくし、今はそんな湿っぽい話をしに来たわけじゃないんですのよ、と……、出来ましたわ」

ついに花瓶にルーンを刻み終わり、私は汐里さんに目配せしてからマギを込めて術式を起動した。そうして懐中時計を花瓶の淵にかざすと秒針の進みが目に見えて鈍化した。

「上手くいきましたね!!」
「ええ、良かったですわ。あとは花を中に入れて……、今度こそ本当に完成ですわ」
「梨璃さんの髪飾りの時もそうでしたけど、楓さん、初めてとは思えないくらい上手ですよね」
「ふふ、ありがとうございます」

そういえば幼い頃は”わたくしもおとうさまみたいなチャームをつくるから!!“と、そう言ってよく工作に励んでいたなと思い出した。案外、自分にはこういう分野も性に合っているのかもしれない。

「じゃあ、今度はプレゼント用にラッピングしないとですね。そういうの私得意なんですよ?」
「ええ、知ってますわ。でも、せっかくですけど包んだところでどうせすぐに開けてしまいますからこのままで大丈夫ですわ」
「そうは言ってもどうやって送るんですか?せめて桐箱か何かに」
「それなら問題ありませんわ。今この場で渡してしまいますから」

どういうことだろう、と、キョトンとして小首を傾げる汐里さんが見られただけでも、ここまで隠し通して来た意味があったというものだった。

「はい、汐里さんに」
「え」
「だから白いカスミソウを選んだんですのよ?まだまだ先の話ですけど、汐里さんの誕生花ですもの」
「え、でもどうして……」

汐里さんは本当に信じられないといった様子でカスミソウと私の顔を交互に見遣っていた。

「どうしてって、わたくし、汐里さんには凄く感謝してるんですのよ。あの時は毎日毎日遅くまでわたくしの話を聴いて下さって、本当に救われましたの。だから、そんな顔しないで下さいな」
「あれ……?私、凄くびっくりして。自分じゃないって思ってて……、凄く嬉しいんですよ?」

サプライズを仕掛けるためとはいえ、汐里さんにはイジワルをし過ぎたかもしれない。

「でしたら、笑って受け取って頂けると嬉しいですわ」
「はい……、楓さん、ずっとずっと大切にします」

そう言って目尻に涙を蓄えて微笑んだ彼女は、凄く、綺麗だった。

 

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