・原作初見時の感想
勿論それだけじゃないし、そんな単純な話でもないんだけど、これは部分的には京アニの話だな、と思う……。でも、そんな単純な話じゃなくて、それでも描こうという気分であったり、描いているという姿であったり。
— ker-六連星手芸部- (@cs_ker) 2021年7月18日
ルックバック - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+ https://t.co/qSDoL7Qjc4
当時は全く咀嚼し切れておらず、圧倒はされたが作品に対してニュアンスを掴み切れていなかった。より厳密には“本作に対して果たして感動して良いのか?”という勝手な疑念があった訳だが、これは劇場版を通して払拭された(後述)。細かいこと書くとキリ無いので本当に要点だけ。
・最も残酷だと感じた表現について
藤野が小学校の卒業証書を京本に届けた際に描いた4コマ漫画、そこに最初に与えられたニュアンスは、”ひきこもり世界選手権に参加していた(させられていた?)京本が、実は既に家の中で朽ちていた“、つまり”「出てこないで!!」の結果死んでしまう“というモノだったと思われる。しかし、それがあの事件を境にして、“「出てきて!」の結果死んでしまう”に描き換えられてしまった。
藤野は勿論、漫画を描いた時にはそんなニュアンスを込めていない。しかし、現実が創作を歪めてしまった。4コマ漫画の意味が描き換えられ、“私が「出てきて!」と言ったせいで京本が死んだ”という藤野の思いをこの上無く補強してしまった。こんな残酷な後悔は無いと思った。
・本作に感動して良いのか?
その後悔から藤野が4コマ漫画を破り捨て、「出てこないで!!」の世界に物語が分岐する。……と、断言していいかは正直分からない。こんな世界だったら良かったのに、という藤野(と読者、鑑賞者)の願望が投影されて描かれているだけかもしれない。実際には分岐する世界は無くて、藤野に憧れる京本が、そのヒーロー像を投影して生前に描いた漫画がたまたまあの時窓から剥がれ落ちただけかもしれない。実際にはどっちなのか分からないけど、いずれにせよ、あの世界は京本が生きている世界に合流したりはしない。
それでも、とにかく漫画というファンタジーが、「描かなきゃよかった」という藤野の後悔を更に描き換えていくのが堪らなく美しい構成だと思った。「漫画なんて描いても何も役にたたないのに……」と思っていたのに、藤野は京本の漫画に救われてしまったし背中を押されてしまった。現実はどうにもならない、漫画を描いて現実に起きたことが描き変わる訳では無い。だけどそのファンタジーに救われることは現実にある訳で、それが真っ直ぐに描かれた本作に感動しても良いんだと、ようやく思い至った。
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タイトルこそ作画の技法書のようですが、実際には技法書というより、押山監督の自伝的な作画への向き合い方を記した一冊です。印象的というか、意外だったのが『電脳コイル』に参加した際の作監に非常に後悔があるという旨の記述が繰り返されていることで、『ルックバック』において原動画という手法が取られた理由の一端であると私は考えています。
いつまで公開されてるか分からないですが、本作の押山監督の初監督作品『フリップフラッパーズ』が現在youtubeで全話公開中です。『ルックバック』に勝とも劣らない超作画アニメですので興味のある方は是非。ちなみに、タツキ先生のお気に入りは5話とのこと。