六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

『あみぐるみ少女の制作工程』各国Amazonの販売ページのリンクをまとめました

先日Amazonプライムのサービスであるkindle direct publishing(以下、KDP)を利用してヒトガタあみぐるみの編み図や制作方法を解説した日本語版と英語版の2種類の電子書籍を自出版しました。一口に英語版と言っても、各国でAmazonの法人は独立しており販売サイトのURLも異なるため、本稿で一括してまとめて記載します。

 

日本語版

JP

https://www.amazon.co.jp/dp/B07XTBCSQX

 

英語版

US

https://www.amazon.com/dp/B07YVGJRNG

 

UK

https://www.amazon.co.uk/dp/B07YVGJRNG

 

DE

https://www.amazon.de/dp/B07YVGJRNG

 

FR

https://www.amazon.fr/dp/B07YVGJRNG

 

ES

https://www.amazon.es/dp/B07YVGJRNG

 

IT

https://www.amazon.it/dp/B07YVGJRNG

 

NL

https://www.amazon.nl/dp/B07YVGJRNG

 

BR

https://www.amazon.com.br/dp/B07YVGJRNG

 

CA

https://www.amazon.ca/dp/B07YVGJRNG

 

MX

https://www.amazon.com.mx/dp/B07YVGJRNG

 

AU

https://www.amazon.com.au/dp/B07YVGJRNG

 

IN

https://www.amazon.in/dp/B07YVGJRNG

 

冒頭10ページ

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ker - 六連星手芸部員 - のpixivバックアップ

ker - 六連星手芸部員 -の小説 - pixiv

個人サイトの時代に戻るとか一部で言われてますが、今更そんな面倒な事する人いるのだろうか……?とかぼんやり考えた結果、今の環境で一から個人サイトを立ち上げるくらいならブログをデコった方が遥かに容易だろう、と思い至ったので実験です。別に移行する訳ではなくバックアップという位置付けです。専属で立ち上げる、あるいはこれを主コンテンツとする、という方はこういったページをトップ固定すれば機能するかと思います。そうでないという方も、他者に紹介する際にはこのようなリンク集を伝えれば良いかなと。本来であれば「記事に“一次創作の作品名_FA”みたいなタグを付ける」とかの取り決めでもしてしまえば各々勝手に検索出来る訳ですが、今のところはてなブログにはタグを検索するプラットフォームが存在しないので、自分でアドレスに打ち込むか既存のタグを踏む他無いんですね。
さて、このページがサイト内のハブとなります。pixivから全作品は持って来てはいませんが、ジャンルでまとめて概説とリンクを掲載しています。一次作品名に(二次創作シリーズ名)を併記。

 

放課後のプレアデス
pixivの投稿はここから。それ以前はエヴァスレとかで昔書いてたのがまとめサイトに残ってたりする(どれか言ったら無粋なので言わないけど)。本作は放送当時に一週間で書いた作品に、その後の公式小説等の設定も合わせた『放課後のプレアデスYouTube版』10周年時のリメイク。また、リメイク前の作品を元にMAD動画も制作した。

アルデバランを探して-新版-

放課後のプレアデス(MAD)眠り姫 高画質版 - ニコニコ動画

 

・まちカドまぞく(やさしいまぞく)
本来は前後編の予定のところ、収まりが難しく間に一作挟んだシリーズ。pixiv内では「魔法少女のブランケット」がブクマfav共に最多。この後に発表された原作設定が想定外の内容だった点も含めて二次創作っぽさがあるシリーズ。元ネタは安心毛布(ライナスの毛布/security blanket)という心理学用語。

魔法少女のブランケット
Pork and Tomato Stewed hamburger steak for Dinner
やさしいまぞく


・アサルトリリィBOUQUET(-幕間-)
対してこちらは作品数最多。いつも3作位書いたら後は書かなくなるが、これは考察記事(『アサルトリリィBOUQUET』覚書 各話考察と感想 - 六連星手芸部員が何か書くよ)に延々と肉付けする手法で結梨ちゃん周りを補完して行った結果として膨らんでいった次第。投稿順はpixivそのままでここでのリンクは時系列順に記載。

嫉妬
葡萄畑の匂い
人魚は何故、少女の守護天使になったのか
ルームメイト
彼岸にて
渚にて
猫と微睡む
貴女に感謝の花束を
気遣いのお茶会


とある科学の超電磁砲(電気羊は銀のイルカの夢を見るか)
「亡くなったもう一人のドリーはどうなったのか?」というコンセプトの作品。自分自身、葬儀やそれに纏わるいざこざに碌な思い出が無く、人を弔うとか偲ぶとかって本来そういうものじゃないだろう、という思いがありそういうテーマが非常に多い。シリーズ名の元ネタは語呂合わせの面が大きく、また各話タイトルは『対象喪失』『すき、すき、だいすき』より。特に小此木啓吾先生の『対象喪失』の影響が大きい。

どっちかなんてえらべない
対称喪失
すき、きらい、だいすき


プリンセス・プリンシパル(鏡写しの二人)
メインスタッフやスタジオ降板により作品からは完全に離れたが、それで黒歴史にするのも何か違うという事で残している作品群。最初はとにかく「お城には犬がいた」が主題だった。

天使の加護
二人の共犯者
天使の惨禍

天使の惨禍

ーーーあの日の、夢を見た。

自分の手の中で乾いた音が響き、硝煙と錆のにおいが立ち込めていた。ひたひたと足元に生暖かい水が這い寄り、堪え切れない吐き気が私を襲った。

私は生き延びる為に、盗みもした、人を騙しもした。そして、それらとは比べ物にならない淀んだ感覚に心が押し潰されそうになる中、たった一つの感情が私を私でいさせてくれた…。

ああ……、こうしてここに立っているのが……、あなたでなくて、よかったーーー。


『天使の惨禍』


「……ロット、シャーロット」

少しずつ、私の名前を呼ぶ声がはっきりと響いてきた。ああ、プリンセス、そんなに心配しなくても、私は大丈夫だよ。しかし、伝えたかったその言葉は口から紡がれる事はなく、微睡みの中に霧散していった。頰に添えられた手を握り、ようやく私は目を覚ました。

「どうしたの、シャーロット?うなされてたみたいだけど」

眠っていたはずのプリンセスが身を捩り、肌と肌が擦り合わさって身体の感覚が戻ってきた。素肌を撫でる髪がくすぐったい。

「ごめんなさい、起こしてしまって」
「そうね、シャーロットがあんまり強く抱き締めるんですもの」
「えっと、ごめんなさい……」
「んーん……、いいの。夢を見たのね?」
「うん……」
「怖い夢?」
「昔の夢よ。もう済んだ事」

そこまで口にしたところで、私は言葉を選ばなかった事を後悔した。私を見据えるプリンセスの瞳が、憂いと決意に揺れていた。

「話してくれる?」
「楽しい話じゃないわ」
「シャーロットの事だから知りたいのよ?」
「でも……」
「シャーロット、約束」

約束……、その言葉の前で、私に隠し事など出来るはずもなかった。少しずつでもいい、お互いの過去を返していく、私たちはそう約束した。

「……そうね、約束したものね。でも、一つだけお願いを聞いてもらってもいいかしら?」
「お願い?」
「うん、お願い。えっと……、私がどんな話をしても怒らないでね?」
「努力するわ」

私は確約を得られなかった事に一抹の不安を覚えながら、もう一度、怒らないでねと念押しし、あの時に至るまでの昔話を始めたーーー。

 


「ーーークイーンズ・メイフェア校への潜入……、ですか?」
「そうだ。知っての通り、女王の肝入りで設立された学校だが、王族関係者も多く通っている。君達のような若い工作員の潜伏先として、また情報収集にも都合が良い」
「成る程……」
「そこで、先に潜入している工作員と共に、学内に拠点を構えてもらいたい」
「了解しました。それで、潜入している工作員というのは?」
「ああ、彼女の事だがーーー」

 


ーーー寮での自己紹介を終え、私は呼び出された屋上へと向かった。扉を開けて周りを見やると、足元の階段に寝転がる見知った後ろ姿があった。

「ルームメイトになったのに、わざわざ屋上で落ち合う必要あるの?」
「開口一番それかよ……。気分だよ気分、それに……」
「?」
「ここじゃないと吸えないんだよ」
「そう……」

ファーム同様、彼女は相変わらず健康優良不良少女を貫いているらしい。任務遂行前に退学になったらどうするつもりなのだろうか?

「なあ、自己紹介しちゃった後で今更だけど、そんなツンツンのクールキャラで通すのか?殆ど地じゃないか。何かそれっぽいカバーとか」
「それで、手筈はどうなってるの?」
「聞けよっ!!……ったく、相変わらず無愛想だな。折角の可愛い顔が台無しだぜ?」
「スパイに愛想なんて必要無いでしょう?」
「そうは言っても、ファーム時代のハニトラの試験成績はかなり良かったよな?」
不本意ながらね」
不本意なのか?」
「そうよ」

彼女に主導権を渡したままでは、いつまでも話が進まない。時間を無駄にする理由も無い為、私は本題を切り出した。

「で、場所の目星は付いてるの?」
「ん?ああ、これってところが一箇所だけな。じゃあ、新入生の為に、優しい先輩が校内を案内するとしますか」
「先輩、ねぇ……」
「何か言いたそうだな……。ま、それはそれとしてだな」
「?」
「これからよろしくな、相棒」
「……よろしく」


彼女に案内されてそこは、校舎の中でも人気が無く、そして、人の手が殆ど付けられていない場所のように思えた。学校全体が小綺麗な雰囲気で統一されているだけに、埃っぽさが余計に際立っていた。

「何ここ?物置き?」
「博物室なんだってさ。作ったはいいものの活用機会が無くて、今は骨董品やら化石やらを置いとくだけの部屋になってるらしい。広くて良い感じだろ?」
「確かに広いけど、埃っぽくていけないわね」
「贅沢言うなよお嬢様。片付けて掃除すりゃ何とかなるって。それに、ここなら骨董品に紛れ込ませて色々持ち込んでもバレない」
「……成る程」

確かに彼女の言う通り、部屋の広さと雑多さも相まって、色々と隠しておくには便利そうに思えた。

「でも、どうやって維持管理するの?ここは生徒に貸し与えられた個室というわけではないでしょう?」
「じゃあ、ここが今、誰かが管理してるように見えるか?」
「いいえ」
「だったら私達がこの部屋の管理人になっちまえばいいのさ」
「クラブでも作るつもり?」
「話が早くて助かるよ。そうだなぁ……“歴史的調度品を愛でながらお茶する女子クラブ”、略して“歴女クラブ”ってのはどうだ?」

その略称は誤用だと誰かに怒られる気がしたが、どうせ怒られるのは彼女の方だと思い黙っておいた。

「じゃ、私はクラブ申請の手続きを済ませてくるから、模様替えのプランでも考えておいてくれ」
「……了解」


それから私達は、コントロールの業者を手引きしたり、調度品に紛れ込ませて銃器やスパイ道具、そしてティーセットを揃え、順調に拠点を構えていった。彼女は彼女で別の潜入任務があると言って、よく、夜中に出払って朝方に帰って来ては、午前の授業を居眠りしていた。そして、潜入から一月程経った頃、私はコントロールに召集され、ある命令を受け取った。


「私が潜入してる組織絡みじゃないか。何で私じゃなくてお前が指令書を受け取ってるんだよ?」
「だってあなた“久し振りの非番だー!!”とか言って寝てたじゃない?」
「それもそうだけど……、まあいいや。で、内容は?」

そこまで話し机に資料を広げたところで、部室のドアがノックされ、こちらの返事も待たずに招かれざる客が部屋に現れた。

「失礼しますっ!!」
「部室の見学を、させて、いただき……、たい、と……」

扉を押し開ける音が聞こえると同時に、私は机に押し倒され、彼女に唇を奪われた。横目で開け放たれたドアへ視線を向けると、下級生と思しき女子生徒達の姿が視界に入った。彼女達は、茫然自失といった表情で立ち尽くしていたが、やがて意識を取り戻したらしく、顔を見る見る上気させていった。そして、はわあわと言葉にならない声を幾らか飲み込んだ後に、悲鳴にも近い、か細い嬌声を上げて去っていった。

「「しっ……、失礼しましたぁ……」」

私達は突然の来訪者が顔を真っ赤にして走り去って行った事を横目で確認し、身体の密着を解いた。そして、私は彼女の釈明を聞くべく、抗議の言葉を口にした。

「……何をするの?」
「そんな怖い顔で睨むなよ。別に初めてじゃないだろ?ファームでの訓練の時」
「それ以上言ったら張り倒すわよ?」
「へいへい……。あー、折角の資料がしわくちゃだ。まさか返事も待たずに入って来るとは、ね」
「そうね……、油断したわ。いろんな意味で」

私はそう言って、再び彼女を睨み付け、今度こそ弁解の言葉を待った。

「仕方ないだろ。咄嗟に資料を隠す方法を他に思い付かなかったんだから」
「噂になったらどうするのよ?」
「その時は、密会の理由に事欠かなくなるだろ?それより、さっきの子達の今後が気にならないか?」

そう言って彼女はウインクしてみせ、私は肩を落として溜息をついた。何事にも戯けた口調でのらりくらりと言葉を躱す彼女に対し、あらゆる追求をいよいよ私は諦めた。人払いが上手くいけば良いが、もし、野次馬が押し寄せたらどうするつもりなのだろうか。

「もういいわ……。作戦決行は三日後。まずは、王国内で人身売買を斡旋している組織を叩く。その後、入手した密輸ルートを元に、共和国側のブローカーを強襲」
「コントロールがボランティアで社会奉仕活動を?」
「その辺りの事情はあなたが詳しいって聞いたけど?」
「んー?あーあー成る程ね……。なんでも、攫った身寄りの無い子供達は、ケイバーライト障害や新薬の為の人体実験に使われているらしい。それを横から掻っ攫って、ファームに押し込む魂胆だな?」
「捨てる悪あれば拾う悪あり、ね」
「なんだ?なんかの格言か?」
「別に」
「ただ、中にはストリートチルドレンを統率しているような、そういった強いリーダーシップを持った孤児もいるらしい。才能は教育出来ないし、コントロールの本命はそっちだろう」
「世知辛いわね」
「まったくだ」

それから、作戦に使う銃器を見繕い手早くメンテナンスを済まして、私達は寮へと引き上げた。しかし、彼女は忘れ物があるから先に戻ってくれと言い、途中で部室へと引き返して行った。

「わざわざ何を取りに戻ったの?」
「ああ、博物室にワインがあったのを思い出してさ。さっきは辛気臭い話しちまっただろ?たまには一杯くらい付き合えよ」
「まあ、一杯だけなら」

そう言ってワインをグラスに注ぐ彼女は、いつになく上機嫌に見えた。私達はたわいもない話を肴にして、と言っても、私は殆ど相槌を打っているだけだったが、互いにグラスを傾けていった。程なくして、彼女は怪訝そうな顔でこう言った。

「おいおい、もうお眠なのか?まだ一杯だけだぜ?」
「あなた、最初に一杯だけって言ってたじゃない。でも、ええそうね、疲れてるのかもしれないわね……。誰かさんが爆睡してた所為で、余計な使いっ走りをする羽目になったんですもの」
「そりゃ災難だったな。酷い奴もいたもんだ」
「本当に口が減らないわね……」
「性分なんだよ。じゃ、お開きだ。休みなよ」
「ええ、悪い……、わね……」

私はそこまで言って机に突っ伏した。そして、彼女が私を抱き抱え、ベッドの上へと横たわらせた。

「ツンとした美人に見えて、寝顔は結構可愛いもんだな。良いモノ拝めて良かったよ」

皆が寝静まった学生寮の一室で一人そう呟くと、彼女はお気楽な不良生徒のカバーを仕舞い込み、スパイとしての本性を露わにした。

「悪いな相棒、楽しかったよ……」

誰に聞こえるでも無い言葉を残し、彼女は寮を抜け出したーーー。

 


ーーー真夜中のロンドンの町外れ、裏通りの全てを霧が覆い隠すその情景は、決して表に出せない密会には都合が良かった。

「ニ日後にコントロールが組織を襲撃する。私はこれからまた向こうに戻って、共和国のスパイとして組織の襲撃に参加する……、と見せ掛けて、後ろからドカン、さ。それとなく準備を整えておいてくれ」
「上手く、行くのかな…?私達、本当に逃げられるんでしょうか」
「大丈夫だ。心配するなよ。私がお前を守ってやるから」

少女は何か伝えようと顔を上げたが、すぐさま言葉と一緒に唇を奪われた。幼い少女を相手にするには、いささか情熱的なやりとりが交わされ、唇が離れた後も、少女は熱に浮かされたように、惚けた表情で彼女を見上げていた。しかし、やがて思い詰めたように目を伏せ、その不安を口にした。

「でも、私、不安なんです。あなたの事信じてます。そうじゃなくて、私、足手纏いなんじゃないか、って……」
「だから心配するなって。ああ、任せておけよ。そもそも一緒じゃなきゃ意味無いだろ?まずはこの作戦でコントロールを出し抜いて」

しかし、彼女の励ましの言葉を待つ事も無く、乾いた音が響くと同時に、年端もいかない少女の足が撃ち抜かれ、短い悲鳴が聞こえた。少女の顔が苦痛に歪み、彼女はそれを抱き留めた。狙撃者を睨むその表情は、先程まで見せていた余裕とは裏腹に険しいものに変わっていた。

「こんな夜中に私を誘わずこっそりドライブ、しかも、他の女の子との逢瀬だなんて……。私じゃ不満だったのかしら?」
「お前……、なんで……」
「あのワイン、口に合わなかったから実は殆ど飲んでないの。余計な味付けで誤魔化さずに、もっと良いものを選んで欲しかったわ」

私は、左腕に巻かれた包帯に血が滲むのを感じながら、提供されていたワインにクレームを入れた。彼女も私の様子に気付いたらしく、調子を合わせて返答した。

「なるほど、そりゃ悪い事をしたな。でもダメじゃないか、良い子はもう寝てなきゃいけない時間」

彼女の口が言葉を全て紡ぐ前に、再び、乾いた音が響いた。ショットガンが宙を舞い、同時に、ぽたぽたと水が滴る音が聞こえた。

「おしゃべりはもうお終いよ。質問に答えなさい」
「容赦無いじゃないか、相棒。いつから気付いてた……?」
「最初からよ」

あの時、私の問い掛けにLはこう続けたーーー。

 


「ーーー彼女の事だが、メイフェア校に先行して潜入している工作員には、兼ねてから二重スパイの嫌疑が掛かっている」
「どういう事ですか?」
「彼女は今、メイフェア校と並行して王国側で人身売買を斡旋する組織に潜入しています。そこで接触した王国の工作員から情報を得ていますが、“どうやらそれ以上に密な関係になっているようだ”と、別の工作員から報告が上がっています」

今度は分析官が淡々と状況を説明した。そして、Lがその説明を引き継いだ。

「限りなく黒に近い灰色だが確証は得られていない。そこで、組織への襲撃作戦を餌に、その尻尾を炙り出す」
「了解しました」

つまり、私に下された本当の命令は、メイフェア校への潜入ではなく、二重スパイの始末だったーーー。

 


「ーーー答えなさい。あなた、何をしているの?それとも、私が代わりに説明すればいいのかしら?」

私が銃身を固定したまま再度問い掛けると、彼女は肩で息をする少女を抱き留めながら静かに口を開いた。

「ああ、そうだよ……。もう全部わかってるんだろ?私が潜入した組織…そこで、革命で離れ離れになったこの子に再会した。酒場でささやかな歌を披露して糧を稼いでいた女の子が、今や王国の末端工作員さ……」

彼女は、少女を見やりながら自嘲気味にそう答えた。いつも崩さない余裕の表情は今や完全に鳴りを潜めている。

「それで、彼女との逃避行の為に二重スパイになった」
「ああそうさ。と、言いたいところだが少し違うな。コントロールを返討ちにした後は、同士討ちに見せ掛けて今度は組織を潰す。そして、私達は晴れて自由の身……。そうなる、ハズだった……」
「そんな世迷言が本当に実現すると思ってたの?」
「何とでも言えばいいさ!!この子を助ける為に他にどうすればいい!?このままコントロールが組織を襲撃したら、この子は死んでしまう!!」

彼女がカバーやおふざけのお芝居以外で、ここまで感情的になるところを初めて見た。他人と繋がりを持つ事がここまで人を変えてしまうのか、私には分からなかった。ただ一つ確かな事として、彼女は、選択を誤った。

「情に溺れたスパイの末路は悲惨なものね……。一つだけ、あなた達が一緒に逃げ延びる方法があるわ」
「何を……、言って……」
「さよなら、私も楽しかったわ」

私が続けて引き金を引くと、彼女達は糸の切れた人形のように折り重なってその場に崩れた。私には祈りを捧げる神などいないが、こういう時、普通は何を祈るものなのだろうか?そうして私が一瞬の感慨に浸っていると、私の直ぐ真後ろに誰かが立つ気配を感じた。この距離まで私が気配を察知出来ない相手となると、思い当たる人物は一人しかいなかった。

「やはり、こうなったか」
「L……」
「私の不始末だ。教え子が迷惑をかけた……。すまなかったな」
「いえ」
「回収班が直ぐに来る。我々は、このまま組織を強襲。密輸ルートを抑え、壁の向こうのブローカーを叩く」
「了解」

私は一瞬立ち止まり、亡骸を見遣った。

「……」
「何か言ったかね?」
「いいえ、行きましょう」


組織の寝込みを襲うのは容易かった。だが、壁を越えてブローカーの元へ強襲した私達の前には、想像を絶する光景が広がっていた。


「これは、どういう事だ……?」

私は、あのLが不測の事態に多少なりとも狼狽えるという光景を初めて見た。辺りには血と硝煙のにおいが立ち込め、生き残っているブローカーは誰一人いないようであった。そして、子供達も皆一様に、怪我をして動けないか、動かなくなっていた。Lの指示で他の工作員が状況調査と救護に当たる中、私は比較的軽傷と見られる子供達に話を聞いた。

「何があったの……?」
「お姉さん……、誰?助けに、来てくれたの?」
「そうね……、話を聞かせてもらえるかしら?」

私の問い掛けに、怪我をした子供達が言葉を紡いだ。その輪の中には、横たわったまま、もう一言も発する事が出来なくなった子供もいた。

「僕らの仲間……、壁の向こうに何人も連れてかれて、それで、あの子が……」
「あの子?」
「好きにはさせないからって、作戦、考えて……。でも、スリみたいに全部は上手くはいかなくて……」

ストリートチルドレンを統率する子供……、その存在が脳裏を過ぎった。

「その、あの子というのは?」
「奥に……、いるわ」

子ども達を他の工作員に預け、私は指し示された建物のへと足を踏み入れた。途中、鼠取りに片足を食い千切られたブローカーを見掛けたが、その眉間にはご丁寧にも銃槍が付けられていた。銃は、彼らから奪ったのだろうか?本当に子供達が全てやったのだろうか?様々な疑問が降って湧いて来た。私はその容赦の無さに当てられているのだろうか?

そうして建物の奥に足を踏み入れると、年端もいかない少女が血溜まりの前に立っていた。その幼さに不釣合いな銃を握り締め、身体を震わせ、肩で息をし、唇は吐瀉物で汚れていた。

「あなたが、撃ったの?」

私は、部屋の奥に転がっている肉塊を横目で見やり、少女に問い掛けた。茫然としていた少女はハッとして顔を上げ、私に銃口を向けた。

「私はあなたの敵ではないと思うのだけれど、あなた次第では考えを改めるかもしれないわ」
「じゃあ、助けに来てくれたの……?」
「助けに来た……。と言うと語弊があるわね。あなたが、子ども達のリーダーね?」
「……そうよ」
「単刀直入に言うわ。あなたをスカウトしに来たの。もし、これまでのあなたを棄てる覚悟があるのなら、私と一緒に来なさい」

他の子どもたちは、その殆どがスパイとして育てるには望みが薄いように思われた。しかし、この子であれば……、その才能と、危うさとを秤にかけ、私は前者を取った。

「私は、絶対に生き延びて、やらなくてはいけない事があるの。いいわ。私を、ここから連れて行って」

金色の髪は燻み、毛先が傷んだ不揃いな前髪やパッチワークで繋ぎとめられた服装は、如何にもストリートチルドレンを思わせた。しかし、私を見据えるその蒼い瞳だけは、一見すると似ても似つかない誰かの姿を想起させた。

「契約成立よ。あなた……、名前は?」
「……アンジェ。お姉さんは?」
「セブンよ。お見知り置きを、プリンシパルーーー」

 


「ーーーあの時は、壁を越えるチャンスだとは思ったのだけれど、大人しく捕まった先でどうなるかも分からなかったし、結局、コントロールに身を置いて、こんなに時間が掛かってしまったわ……」

ここまでを一気に話し、私はようやく息をついた。愛しの姫君の様子が途中から変わっていた事には気付いていたが、話を止めても怒られそうだった為、私はそのまま話を続けていた。当初は相槌を打ちながら話を聞いていてくれたプリンセスだったが、今や目尻に涙を蓄え、頰を膨らませていた。

「ねぇ、プリンセス?」
「……怒ってないわ」
「えっと、私まだ何も」
「怒ってないからっ……」

プリンセスが私の首筋に抱き着き、耳元で小さくすすり泣く声が聞こえた。私は彼女の背中に手を回し、ポンポンと子どもをあやすように触れながら、そっと彼女の耳元に声を落とした。

「ねぇ、プリンセス」
「……」
「私、あれから大勢の人を手にかけたわ」

プリンセスの身体がビクッと震え、首筋に絡む両手に力が入るのを感じた。

「私が選んでそうしたの。それに、私がそうしなかったら、プリンセスがスパイになっていたのかもしれないのでしょう?」
「その方が、ずっとよかったわ……」
「ねぇ、プリンセス。私たちはお互いの過去も未来もそっくり取り替えてしまったって、そう言ったよね?」
「確かにそう言ったわ……、でも、やっぱり私は、あなたから多くのものを貰い過ぎたのよ……」

そうしてすすり泣くプリンセスを抱き留めながら、私はそれでも話を続けた。

「聞いて、プリンセス。私たちは鏡写しだから……、私が多くの人を殺してきたのと同じように、きっとプリンセスは……、アンジェはその分、ずっと自分を殺してきたと思うの。あなただって、一緒なのよ?」

その言葉に、アンジェは絡めていた腕を解いて私と向き合った。私は、身体を離した事に名残惜しさを覚えながら、彼女の言葉を待った。

「私、シャーロットの方がずっと辛い思いをしてるって、そう思ってきたけれど、シャーロットも同じ気持ちでいてくれたの……?」
「そうだよ、アンジェ。だから、私たちはお互いに奪い過ぎた、貰い過ぎたなんて、そんな事ないわ」
「……」
「ねぇ、アンジェ、私にもアンジェの事をお話ししてくれる?」
「シャーロットの痛みには釣り合わないかもしれないわ」
「アンジェの事だから知りたいのよ?」
「でも……」
「アンジェ、約束」

そう言って、私は悪戯っぽく笑った。お城を一緒に走り回って、一緒にベッドの上を転がり回ったあの時みたいに。

「もし、私の話が釣り合わなくても、私の事、怒らないでくれる?」
「私もそう思って話したら、さっきアンジェに怒られたわ。だから、アンジェ、お願い」
「うん……。うん……、そうだね。ねぇ、聞いてくれる?シャーロット、私ねーーー」

取り替えてしまった十年をお互いが返すのに、朝までではとても時間が足りそうになかった。幾つ夜を共に過ごしたら、お互いに自分を返す事が出来るのかも分からない。それでも、その痛みや苦しみを少しずつでもいい、分け合えたらいいと、私たちはそう思った。

二人の共犯者

お城には犬がいた。アイビーと名付けられた干し草のにおいがするその犬は、シャーロットとはぐれて兵士達に運ばれてきた私の側に寄り添った。しかし、何かに気付きハッとして、また崩れた井戸の方へと駆けて行った。心細さでどうにかなりそうな私の元に、王と王妃が処刑されたと兵士が告げた……。

気が付くと、私はシャーロットの寝室でベットに横たわっていた。物音に気付いて身体を起こし、扉の方へ視線を向けると、アイビーが寝室の扉を押し開けた。そして、トボトボとベッドの方へ歩いて来て、私の横で身体を丸めた。私は震える両手でアイビーを抱きしめて、懇願するよう囁いた。

「ねぇ、アイビー……、私が…私が本当はアンジェだって事……、みんなにはナイショにしてくれる?」

アイビーはくぅんと短く鳴くと尻尾を振って私の頬をそっと舐めた。そうしてようやく、冷たかったベットが暖かく感じられた。

 

『二人の共犯者』

 

カサブランカから戻ってしばらくした頃、プリンセスは何か意を決したように、私を連れて行きたいところがあると言った。せっかくの休日だしたまにはドライブでも、そう言ってドロシーが車を出してくれ、行き先を知っているらしいベアトが道案内を務めていた。出発してしばらく経ってから、ちせが口を開いた。

「ところで、何処へ向かっておるのじゃ?」
「そういえばちゃんと話していませんでしたね。私の両親に、皆さんを紹介しようと思って」
「そうは言ってもプリンセス、お主の両親は、もう……」

プリンセスとちせの会話を聞きながら、私は、自分の身体が強張るのを感じていた。目的地はロンドンの郊外の小高い丘の上にあった。街中と違って空気は澄んでいるが、こんな辺鄙な所に王族が眠っているとは俄かに信じ難かった。

「こんな所に墓地があったのか。国王夫妻の遺体は、革命軍が他の兵士達と一緒に焼き捨てたって聞い……、あ、いや、すまない…」
「そうですね……。表向きはそうなっています。実際は、王国の降伏の取引材料として引き渡されたようです」
「むごい話じゃ……」

ドロシーが少し目を泳がせながらそう言って、ちせは目を閉じて手を合わせた。日本式の作法なのだろうか。ベアトはプリンセスの方を見やると直ぐに顔を伏せ、目尻に涙を浮かべていた。皆しばらくの間、口を噤んでいたが、プリンセスが私と二人きりで話したい事があると言って、ドロシー達は先に車の方へ戻る事になった。

「行くぞ、積もる話もあるじゃろう」
「そうですけど……」

ベアトだけは渋々という様子であったが、ドロシーに頭をぽんぽんと撫でられると大人しく引き下がっていった。遠ざかる三人の後ろ姿を黙って見送る中、最初に口火を切ったのはプリンセスの方だった。

「みんな、もうきっと気付いてるわよね、私達の事。ドロシーさんには今度、口止めに何か良いお酒を見繕ってあげないといけないかしら?」
「そうね……。でも、ちせはもう少し気付いていない振りをして欲しいわ。あれじゃスパイ失格よ」

そうして軽口を叩き合いながら、それでも私は聞かずにはいられなかった。

「ねぇ、どうして、プリンセスが泣いてるの……?」
「だって……、あなたが泣かないもの……」
「私は黒蜥蜴星人よ。私にはそんな感情無いもの」
「シャーロットの嘘つき……」

そう、私は嘘つきだ。私はあの日、両親が殺されるところを目の前で見た。悲しみと恐怖、憎悪がぐちゃぐちゃになって心を掻き毟る中、私は熱狂する群衆の間を駆けて逃げた。それからは、アンジェから聞いたスリの技術を独学でなぞりながら、必死に命を繋いだ。そして、人身売買の為に連れ去られた先で、組織をコントロールが襲撃してLに拾われる頃には、私からはシャーロットとしての感情が消え失せていた。ただ一つ、アンジェに会いたいという想いを除いては。

「でもね、シャーロット。あなたにここに来て欲しかった理由は他にもあるの」
「どういう事?」
「こっちよ」

それだけ言って、プリンセスは、墓地の片隅の小さなお墓の前に私を案内した。

「アイビー、シャーロットを連れて来たよ」

“lvy(アイビー)”そう墓石には名前が刻まれていた。どこからか、くぅんと鳴き声が聞こえた気がして、思わず私は振り返った。そして、私は視界に掛かる靄を払いながら、記憶の井戸の底を覗き込んだーーー。


そうだった……、お城には、犬がいた。アイビーと名付けられたその犬は、私が産まれる前からお城にいた。大きくて大人しく、ふわふわしたピアデットコリーだった。牧羊犬の仕事をこなす傍ら、私が産まれてからは、まるで親代わりのように振舞っていた。レッスンが嫌になった時、公務に疲れた時、私は決まってアイビーのお腹に頭を預け、庭園の木陰で一緒に眠っていた。

そうだった……。あの日も、お城には犬がいた。井戸の側で私たちが互いに見つめ合っていると、アイビーは私を探しにやって来た。アイビーはアンジェを見るとすぐ、短く吠えて威嚇した。私は、怯えるアンジェの前に立ち、この子は私の大切なお客様だから吠えちゃダメ、そうアイビーに言い聞かせた。そして、私がアンジェと友達になった夜、私はまたアイビーに言い聞かせた。私の大切なお友達の事だから、あなたもちゃんと大切にしてあげるのよ、と。


「ーーーアイビーは、私の初めてのピアノのコンサートの後に、眠るように逝ってしまったわ……。まるで、私が一人で立って歩けるようになるまで待っててくれたみたいに。あの子は私達の大切な友達だから、あの後の事をずっとあなたに話したいと思って……。シャーロット……?」

泣いているような笑っているような、そんなプリンセスの顔が霞んで見えて、私は自分の頰が濡れている事に気が付いた。枯れていた井戸に水が急速に戻り、黒い蜥蜴が溺れていくのを感じた……。

「私、今の今までこんな大切な事を忘れていたの?あの子がいたのに……。私、どうして、あんな……っ……」

プリンセスが私をそっと抱きしめ、いよいよ井戸は溢れ返りそうになっていた。

「シャーロット、あなたはアイビーの事を忘れていたわけじゃないわ。あなたは、私にプリンセスを押し付けたって、そう言ったけれど……、やっぱり、私はあなたから、あなたの大切な繋がりも、あなたが受けるべき慰めも、全て奪ってしまったの……」
「そんな……。そんな事……、私が押し付けてしまったの……。プリンセスの事も、アイビーにだって……」
「それは、私だって同じなのよ……?もし、あのまま入れ替わらずにはぐれていたら、私はあなたに会うために、きっと、共和国のスパイになっていたわ」

それは、恐ろしい想像だった。立ち込める硝煙と錆のにおい、ひたひたと足元に這い寄る生暖かい水の音、その光景を私を抱き締める最愛の人の手が作り出すなど、決してあってはならないと思えた。私が押し黙っていると、プリンセスが再び口を開いた。

「ねぇ、シャーロット、私達はお互いに奪い合ったんじゃないのかもしれない」
「……どういう事?」
「私達はきっと、お互いの過去も未来も、一緒に取り替えてしまったの。だから、あなたはアイビーの事を覚えてなかったのよ」
「そんな……」

過去を取り替えるなど、私には突飛な想像に思えた。しかし同時に、私は生まれた時からアンジェだった、そう思い込もうとしている自分がいた。

「だからね、シャーロット。私達、これからはお互いの大切なモノをゆっくり返していきましょう。あの後の事だって、ドロシーさんから話を聞くだけじゃ物足りないもの」
「私だって、プリンセスの事をもっと知りたいと思うわ。でも……」
「そうするとアンジェではいられなくなってしまう?」
「……うん」
「私の前でシャーロットに戻るのは嫌?」
「そんな聞き方ずるい……」

プリンセスがいたずらっぽく笑って、私は、これから先もずっと、彼女には敵わないのではないかと思ってしまった。

「私言ったわ、あなたの心の壁を壊してみせるって。少しずつで良いの。それまでは、あなたの涙を独り占めする事を許して」
「……うん」

私はそう小さく返事した。溢れた井戸の水が引いてゆくまで、私達は寄り添っていた。私は、井戸にそっと蓋をして鍵を掛け、それをプリンセスに預けた。そして、黒い蜥蜴の皮を身に纏う前に、もう一度アイビーに向き合ってこう伝えた。

「また来るからね。アンジェの事を、護ってくれてありがとう」


ーーーそう、お城には犬がいた。干し草のにおいがするその犬は、今までもこれからも、私達の秘密を黙してくれている。

天使の加護

シャーロットと逸れ、殺気立った大人達の喧噪の中で、私は息を殺し、部屋の隅で縮こまっている事しかできなかった。シャーロットは無事だろうか、私はこのままどうなってしまうのか、様々な感情で頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。その時、扉が激しく開かれ、革命軍に囚われていた王と王妃が処刑されたと兵士によって告げられた。その瞬間、大人達の視線が私に集まり、私は息を飲んだ。私はどうする事も出来ず、大人達の中で、唯一見知ったクロフォード夫人に縋るように顔を向けた。

「プリンセス……、あなたの、お父様とお母様が、亡くなられたのです……」

「私の、お父さんと、お母……、さん?」

私は、クロフォード夫人の言葉を反芻した。私の……?違う、それはシャーロットの、お父さんとお母さん……。シャーロット……、シャーロット!!

「そんなっ…!!私……違う、いや、そんなの、そんなの……、いやぁああああああああ!!」

泣き叫ぶ私をクロフォード夫人が抱き留め、私をなだめあやすように声を掛けた。違うの。そうじゃないの。私が掛けられているこの優しさしも慰めも、本当は私のモノじゃないの。本当は、全部シャーロットのモノのハズだったのに……。彼女は今、この残酷な現実に独りで打ちのめされている。そう思うと、涙が止まらなかった。

私はいつのまにか、泣き疲れて眠ってしまっていた。クロフォード夫人をからかい、一緒にピアノを弾いて、絵本を読み聞かせてくれたシャーロット。午後の微睡みの中で、いつも隣で手を握ってくれ、一緒に眠ったシャーロット。彼女を求めて伸ばした手は空を切り、私は部屋に独りだった。彼女がいないこの部屋のベッドは、私には大き過ぎて、そして、ひどく冷たかった。

やがて、革命の火が消え、国が別たれた事で、シャーロットが嫌がっていたレッスンが始まった。私は何一つ満足にこなす事が出来ず、私が本物のプリンセスではないと、ついに知られてしまう時が来たと思った。しかし、可哀想に、お労しい、プリンセスはまだ幼いのに、誰もがそう言って、私に無理強いはしなかった。両親を亡くしたショックでプリンセスは気が触れている、皆、そう思っていたようだった。

何も持たない空っぽの私を、シャーロットが、ずっと護ってくれていた。

すき、きらい、だいすき

「みさきちゃんのばか!!もうしらない!!」

私が脱獄トライアルの帰り道にドリーと二人で買い出した食材を冷蔵庫に詰めていると、みさきちゃんにお土産を渡すと弾んだ声で言っていたのとは一変したドリーの声がリビングから響いてきた。おそらくはあのストラップが火種である事は想像に難くないが、いかんせん思っていたよりも極端な展開だ。私は作業を中断してリビングの扉を開くと、そこには既にドリーの姿は無く、操祈ちゃんが床にへたり込みポロポロと涙をこぼしていた。

「ドリーに、嫌われたら……、私、生きていけないわぁ……」

私に気付いて振り返った操祈ちゃんは途切れ途切れにか細い声でそう言った。この子ってば、前からこんなガラスのメンタルだっただろうか?まあ、操祈ちゃんは私に対しても能力を使わないが、とりわけドリーの前では無能力者も同然なわけで。そうすると天下の心理掌握も当然カタナシなわけだが。兎にも角にもいなくなったドリーが気掛かりだし、ここは早急に話を進める必要があった。

「ネェネェ、一体何があったワケ?」
「変なストラップ渡されて、“可憐力が足りないから持ち歩くのはちょっと……”って、そう言ったらドリーが怒って……。もぉ何なのよぉ……」

あー……、これは私が怒られるヤツかもしれない。アレを受け取った時の操祈ちゃんの反応を見たくなかったと言えば嘘になる……、が、しかし、まさかドリーがあんなに怒るとは……。

「まさか、アレは看取さんが選んだのかしらぁ……?」

操祈ちゃんが涙目ジト目でドスを効かせた声で言った。

「イヤイヤ!私じゃないわよ!?ただ……、止めなかったダケっていうか……」

これは心理掌握に誓ってホントの話だ。

「ふーん……、ま、良いわ。あの子の自主性に任せるって約束力だったし……。って、今はそんな事よりあの子の安全力が大事よ!!あぁ、一人で飛び出してどこでどんな目に遭うか!!」
「ノンノン、あの子結構強いわよ?今日、お姫様抱っこで助けてくれた時はカッコ良かったナァ……」

そう言って思い出に浸る私を睨む操祈ちゃんのジト目がさっきより鋭くなっていた。ここでからかうのは失策だったと気付いた私は、端末を操作しながら話題を転換した。

「イヤイヤ、迷子携帯持たせてるんだから、そんなのGPSの位置情報ですぐに……、ってなんでロスト?……え?あの子ったらまさか、電波遮断してジャミングかけてるの!?」
「つまり……?」
「どこにいるかワカンナイ……」

私がそう言うと、一瞬の間を置いて操祈ちゃんは勢いよく立ち上がり部屋を飛び出した。

「ちょっと!!考え無しに飛び出したって、操祈ちゃんは5分も体力保たないデショ!!」

言うや否や、ブーツの靴紐を結ぶのも疎かにして玄関を飛び出した操祈ちゃんは盛大につんのめり、私はその惨状に頭を抱えつつドリーを探す作戦を練るのだったーーー。

 


『すき、きらい、だいすき』

 


ーーー“せっかくですが、少し寄って行きたいところがありますので”

そう言って泡月さんと湾内さんの一緒に帰りましょうという誘いを断り、私はあの黒猫さんを見かけた公園をブラブラと歩いていた。ここに来ればもしかしたら御坂さんの妹さんに、いっちゃんに会えるかもしれないという漠然とした期待を抱いていたものの、あれから一向にその機会が訪れる事はなかった。あの二人であればここに誘っても良いのではないかとも思ったが、御坂さんは病院にお世話になっているらしい妹さんの事を公にしたくない事情があるようで、私の判断で勝手に誰かに紹介して良いものかは判断が付かなかった。
そうして、今日もただ二人の誘いを断っての一人散歩を収穫の無いまま切り上げようかというその時、私は酷く落ち込んでいる様子でベンチに沈み込んでいる一人の少女に思わず声を掛けた。

「あの、失礼ですが、御坂さんの……、ご家族の方ですか?」

髪は長くボーイッシュな出立ちをしていたが、その少女の顔立ちは私の探し人にそっくりだった。

「ミサカ?わたしはドリーだよ?」

少女は私が声を掛けると顔を上げ、キョトンとした様子でそう答えた。どうやら他人の空似であるようだ。

「失礼しました。わたくしのお友達によく似てらしたので……」
「そうなんだ。そのせいふく、みさきちゃんとおなじがっこう?」
「みさきちゃん?えーっと、みさきちゃんが私の知っている方かはわかりませんが、この制服は常盤台のものですわ」

常盤台でみさきというと心理掌握の食蜂操祈が思い浮かぶが、彼女をちゃん付けで呼ぶような人物を私は見た事がなかった。しかし、よくよく考えるまでもなく、みさきという名前そのものはさして珍しくもないし同名の別人なのだろう。

「じゃあ、やっぱりおなじがっこうなんだね……。みさきちゃんと……」

さきちゃんという親しげなフレーズとは裏腹に、彼女の声は悲しげな響きを含んでいた。

「その……、ドリーさんはそのみさきちゃんと、何かあったのでしょうか?」
「うん……、みさきちゃんと、ともだちとけんかしちゃって……。それで、おうちをとびだしてきちゃったの……」
「そうだったのですね。私でよければ、お話しして頂けますか?」
「うん、えっとね…ーーー」

 


ーーー脱獄トライアルにみーちゃんというもう一人の同居人の友達と一緒に参加した事、みさきちゃんは一緒には来てくれなかった事、お土産を買った事、そのお土産にみさきちゃんが良い顔をしなかった事、ドリーは今日ここに至るまでの経緯を話してくれた。

「そう、だったのですね。お土産を受け取ってもらえなかったと」
「うん……」
「ちなみに、どんなお土産を選んだのですか?」
「えっとね……、これ」
「………………」

そう言って彼女がポケットから取り出したストラップは、あの少年院の院長の顔……、いや、正確には脱獄トライアルのトラップとして配置されていたロボットを模したものだった。確かに、その友達がこれを受け取らなかったという気持ちはわかる。しかし、このままでは彼女の友達とのやり取りの再現になってしまうと思い、私はこのストラップを元にして話を広げる事にした。

「これ、脱獄トライアルに出てきたロボットですわよね?」
「え?なんでしってるの?」

私が話を切り出すと、彼女は驚いた様子で答えた。

「実は、私も学校のお友達と参加してたんですよ」
「え?そうだったの!?」
「いきなりこの変な顔のメカが襲って来てビックリしましたわ」
「ね!いっしょにさんかしたみーちゃんがね、ドカーってけってやっつけたんだよ!!」

暗かった表情から一変して、ドリーは生き生きと話をしてくれた。これが彼女の本来の姿である事に私はこの時初めて気が付いた。それに、今のやりとりで彼女が落ち込んでいる本当の理由に察しが付いた。

「ひょっとしてドリーさんは、お友達にお土産を渡したかったのではなくて、こうやってお土産話を、思い出を共有したかったのではありませんか?」

私がそう伝えると、彼女は気持ちを噛みしめるようにゆっくりと頷いて答えた。

「うん……、そう、だとおもう。でも、さんにんいっしょになにかもってたいなって、そうおもったのもホントなんだ……。みさきちゃん、やっぱりかわいくないのはいやだったのかな……?」

私は、アレが可愛くない自覚はあったんだなと内心苦笑した。では、彼女の可愛いの捉え方はどういう方向性なのだろうか?私ははたと閃いて自分の端末を取り出した。

「この子のこと、どう思われますか?」

私は彼女に、私が最も可愛いと思っている待ち受けの写真を見せて尋ねた。

「えーっと……、かわいいリボンだね」

まあ、寂しさを感じなかったというと嘘になるが、そういう反応になるのはもう慣れっこだった。

「あら、お上手ですね。この子はエカテリーナちゃんといって私の大切な家族の大きな蛇さんです。私は可愛いと思っていますし、そう言ってくれる方も勿論いらっしゃいますが、爬虫類は怖くて苦手という方がいるのもわかります。なかなか可愛いという感覚を共有するのも難しいですわね」

私がため息混じりにそう言うと、彼女はハッとした様子で答えた。

「さんにんともかわいいっておもってるもの……、ある。イルカさん。イルカさんがいいな」
「私、動物の事は少し詳しいんですの。ちょっとお付き合いして頂けますか?」

私は、小首を傾げるドリーと一緒に公園を後にしたーーー。

 


ーーー私がドリーを案内したお気に入りの雑貨屋さんで見付かったそれに、彼女は目を輝かせて喜んだ。

「みーちゃんがつくるイルカさんみたい!!これにするね!!」

”ここは私が“という申し出をやんわりと断り“じっけんのきょうりょくひといしゃりょうでもらっておけばってみさきちゃんが“と、そう言って高額カードで支払いを済ますそのギャップから、私は、彼女の生い立ちが尋常でない事にこの時初めて気が付いた。そうして、目的のモノを無事見付けた私達が雑貨屋さんを出たところで、端末を確認したドリーが遠い目をしながら言った。

「わー、すごいちゃくしんりれき……」
「お友達、すごく心配されてるみたいですね」
「うん……。わたし、かえってなかなおりしなきゃ」
「たくさんの思い出話も、ですよ」
「うんっ!!ありがとう!!えっと、あ……、ごめんなさい。なまえ、きいてなかったや」
「ふふ、そうでしたわね。わたくし、婚后光子と申します。ドリーさんの事は、そのままお呼びしても?」
「うん、ドリーがいいな。そのなまえでよんでくれるひとがふえるとうれしいから」

そう言ってはにかむ彼女の言葉にはどこか含みがあって、それは私の心にチクッと刺さった。

「わかりましたわ。では、私の事は「みっちゃん!!」
「えっ!?」
「みつこちゃんだからみっちゃん。それに、なんだかわからないけどこころのなかにうかんできたの……。ダメ、かな?」

ダメなわけなんて、断る理由なんて無かった。

「いいえ、私もそう呼んでくれるお友達が増えて、とっても嬉しいですわ!」
「うん!!じゃあまたね、みっちゃん!!」

そう言って手を振り走っていく彼女の姿が見えなくなるまで、私はその後ろ姿を見つめていたーーー。

 


ーーー翌日、学校のテラスで御坂さんが食蜂操祈とお茶をしていた。そう言うと聞こえは良いが、実際には蕩けきっている食蜂操祈にウザ絡みされている御坂さんが灰になっていた。

「アンタ、友達なんていたんだ……」
「失礼ねぇ……、でも、可憐力高いでしょこのイルカさんのストラップ!!」
「まあねぇ……、アンタがイルカさんって言うのはなんかキモいけど」
「なんですって!!」

喧嘩するほど何とやらというか、それでもそろそろ御坂さんに助け船を出したほうが良いかしらと思い、私は声を掛けることにした。

「お二人ともご機嫌よう。食蜂さん、あれから仲直りできたのですね」
「そうなのよぉ!!」

そう言って振り返った食蜂操祈は、そうして満面の笑みを貼り付けたまま固まってしまった。御坂さんは頭の上にクエスチョンマークを並べて首を傾げている。

「……貴方のお名前は婚后光子さん、で間違いなかったかしらぁ?」
「あら、覚えていて頂いて光栄ですわ」
「みつこ……、みつこ、あぁ……、なるほどねぇ……」

そう言いながら彼女の指が一瞬リモコンに向かったが、直ぐに何かを思い直した様子で手を止めた。

「あら?よろしいんですの?」
「あの子のプライバシーに詮索力を発揮するのは下品が過ぎるわぁ。また喧嘩したくないし……」

それもそうだ。というより、彼女の優先度は相当に高いらしい。

「それよりも、貴方には何をお礼をしなくちゃいけないわねぇ……。あの子の事を黙っててくれたらの話だけどぉ」
「でしたら、そのうちお友達の事をちゃんと紹介してくださいませ」
「……考えておくわぁ」

助け舟にと思って話に入ったが、いつの間にか蚊帳の外に置かれていた御坂さんがぐったりした様子で呟いた。

「もう……。何なのよいったい……」
「退屈しませんわね、この街は。ってお話ですわ」
「婚后さんまで!?」

いつか御坂さんやいっちゃんにも彼女に会ってもらいたい。いけ好かないと思っていたレベル5第5位のお嬢様の意外な一面を知った事で、私はそんな事を考えて期待に胸を膨らませていた。

対称喪失

「あの子たち、結構気落ちしてたわねぇ……」

ある日、派閥メンバーたちが学舎の園の中でこっそり飼っていた猫が死んだと操祈ちゃんが言った。動物とコミュニケーションが取れる能力者曰く元々高齢の猫ではあったらしいが、それでも、そういった事柄にあまり触れる経験の無かったお嬢様たちには堪えたらしく、おおよそ畑仕事など似つかわしくない不慣れな手で土を掘り、中庭の片隅に小さなお墓を作ってあげたのだという。それを聞いたドリーは、お墓を作ったりお花を供えたりする意味を私たちにポツポツと尋ねたが、正直なところ、それに返答している私たちも額面通りの知識を答える事は出来ても、本質的に意味がわかっているのかは自分にもわからなかった。
それから数日間、ドリーはいつものように操祈ちゃんが図書館から取り寄せた絵本や図鑑を読みながらも、時折りページをめくる手を止めては頬杖を付き、ずっと何かを考え込んでいる様子だった。そして、猫の話から一週間ほど経ったある日、就寝時間に私がベッドサイドのランプの電源を落とそうとした時に、彼女は悩んだ末に出した答えを口にした。

「ねぇ、みーちゃん、みさきちゃん」
「なぁに?」
「わたし、あのこの……、もうひとりのドリーのおはかをつくってあげたいの……」


『対称喪失』


それは、私たちがこの蜜月に甘えてずっと見て見ぬフリをして結論を先送りにしてきた事だった。
操祈ちゃんに見送られた後、ドリーの遺体がどうなったのかは私たちにはついぞわからなかった。この学園都市の暗部は、生きている置き去りでさえ実験で使い潰し“廃棄する”ような倫理観の欠落した連中が牛耳っているのは言うまでもなく、実験の結果として死んでしまったドリーがその後どうなったのかは正直考えたくもなかった。降っては湧いてくるロクデモナイ想像を、ただただかぶりを振って掻き消す他に成す術は無いと思っていた。それでもドリーは“あのこがくるしくないように、おいのりすることはできるとおもう”と、あの子のために一生懸命に考えて、こうして打ち明けてくれた。

「純粋力な気持ちでいられるって良いわねぇ……」
「ちょっと、チャカサナイでよ」
「ごめんなさい。でも、茶化したわけじゃないわぁ。本当にそう思っただけよぉ。ドリーは、私が猫の話をしてからずっとこの事を考えていたのね?」
「うん…あのこにはそれがひつようだっておもったの」
「そうねぇ……。でも、ドリーには負担力を掛けてしまったかしら?」
「んーん、そんなことないよ。それに、あのこだけじゃなくて、わたしにも、みーちゃんとみさきちゃんにもひつようだっておもったの」
「ドリー……」
「確か、病院にもそういう場所があったハズだから、今度カエルの先生にみんなでソウダンしてみよっか?」
「うんっ!」

遺体が残っていない以上、彼女の遺した目の前にいるドリーを大切に守る事以外に自分たちに出来る事は無いと思っていた。この学園都市には神様なんていないから…。デモデモ、神様はいなくても奇跡は起こるこの街では、誰かを想って祈る事も決して無駄ではないのかもしれない事を私たちは知っていたーーー。[newpage]
「ーーーまだ、怖い夢は見るのかな?」
「うん、ときどき」
「そうか…」
「でも、ねるときはいつもみーちゃんとみさきちゃんがいっしょだから、めがさめたらそばにいてくれるってわかってるから、ゆめがこわくてもだいじょうぶ」
「そうか、うん、そうだね」

わたしのからだのよくないところは、にゅういんしてるときにカエルのせんせいがなおしてくれて、すっかりよくなっていました。それに、ねむっているだけでずっとうごかしていなかったこのからだも、リハビリやすこしずつおでかけをつづけていけば、そのうちスポーツやとおくへのおでかけもできるようになるだろう、ってせんせいはいってくれました。
でも、わたしにはほかにもこまったことがあって、けんさのひはこんなふうにカエルのせんせいとおはなしをしていました。わたしが、もうひとりのドリーのくるしかったことやかなしかったきもちをゆめにみることを、みーちゃんもみさきちゃんもまだしりません。きっとすごくしんぱいするとおもったからです。カエルのせんせいはおはなしをはじめるまえに、“ここでドリーから聞いた事は、僕もあの二人には勝手に話してはいけないんだよ?でも、もし、ドリーが話してもいい、一緒に考えて欲しいと望むなら、その時は一緒に話をしようね?”といってくれました。だから、きょうはわたしのきもちをすこしだけふたりといっしょにおはなししようとおもったんです。

「ねぇ、カエルのせんせい」
「なんだい?」
「わたし、んーん、わたしたち、カエルのせんせいにおねがいしたいことがあるの」
「僕に手伝える事なら相談に乗るよ?」
「ありがとう。あのね、ドリーの……、もうひとりのドリーのおはかをつくってあげたいの」

それをきいたカエルのせんせいは、ちいさなめをいつもよりもっとまるくしていました。きっと、すごくおどろいているんだとおもいました。

「……それは、みんなで決めた事なんだね?」
「うん」
「そうか、じゃあ、みんなで話をしなくちゃいけないね?外で待っている二人を呼んできて貰えるかな?」
「うんっ!」

わたしは、ふたりをよびにしんさつしつをでましたが、そのときのカエルのせんせいは、すこしうれしそうな、だけどかなしそうな、むずかしいかおをしていましたーーー。[newpage]
ーーードリーに呼ばれた私と操祈ちゃんは、一緒に診察室に入って事のあらましを話した。学舎の園で猫が死んだ事、その話をキッカケにドリーが死について考えた事、私たち二人がもう一人のドリーの事をこれまで考えないようにしていた事、たとえ何か形になるモノが無くても彼女の事をお祈りする方法が見付かれば良いと思っている事を。

「そうか…… 、わかったよ。君たちに受け入れる準備が出来たという事だね?すまないが、この後オペが入っていてね?詳しい話はその後でも良いかな?」
「うん」
「ありがとうね?じゃあ、午後に跨ぐからリハビリの後は食事でもして待っててもらえるかな?そんなに時間は掛からないと思うよ?」

そうして私たちはドリーのリハビリに付き添った後、お勧めされた病院内のカフェテラスで昼食を取った。そして、操祈ちゃんが“食後の紅茶でも頂こうかしらぁ?”と口にしたその時に、カエル顔の医者が“やあ、待たせたね?”とさっきと変わらない様子で現れた。まだあれから2時間も経っていないハズだ。

「オペが延期になった……、のかしらぁ?」
「いや、終わったからここに来たね?時間は掛からないって言ったはずだよ?」
「なんのしゅじゅつだったの?」
「脳腫瘍の摘出だね?」

イヤイヤ……、カエル顔の医者は平然と言ってのけたが、アレは普通数時間は掛かるモノなんじゃナイノ?状況が飲めずに首を傾げるドリーをよそに、私と操祈ちゃんが呆然としていると、カエル顔の医者はそういうリアクションは慣れていると言わんばかりの様子で“着いてきてくれるかな?”と私たちに声を掛けた。
案内されたその場所は、外観こそ他の施設と大差無いが内装はさながら冠婚葬祭を執り行う複合施設のようであり、その一画に設けられた共同墓地は霊園の名を冠するだけあって、まるで開けた花畑のような趣で作られていた。

「ここがこの病院の霊園だよ?病院で亡くなった身寄りの無い人や遺体として運ばれきた置き去りの子どもたちが埋葬されている」
「きれいなところ……。ここにおはかをつくってくれるの?」

ドリーの問い掛けに対し、それまで霊園の中をゆっくりと歩いていたカエル顔の医者が歩みを止め、私たちの方に向き直って言った。

「僕は君達に謝らないといけない」
「カエルのせんせい?」
「君達がこの病院に来るずっと前から、もう一人のドリーはここに眠っている」

私はその言葉を現実感を伴って認識する事が出来なかった。カエル顔の医者は今何と言った?ドリーはここに眠っている?言葉の意味は解ったが、状況はまるで判らなかった。つい先日会ったばかりのこの医者は一体何を言っているのだろうか?

「言ってる意味がわからないンダケド……」
「言葉通りの意味だよ?統括理事会から実験体の検死と解剖を手伝うようにと口添えがあってね?だから僕は了承する振りをして、ドリーの遺体を掻っ攫い荼毘に伏したんだ」
「……え?デモデモ……、マッテマッテ!ホントにそんな事したらタダじゃ済まないンジャナイの!?」
「勿論クレームは受けたね?だから、僕に何か頼むなら患者が亡くなる前に連絡しろと一喝しておいたよ」
「そんな危険力を冒して貴方にどんなメリットがあるのかしらぁ?」
「亡くなった患者の尊厳が守れる。それで十分だろう?」

そう言ってカエル顔の医者は再び歩き始めた。私たちは最初、カエル顔の医者が本当の事を話しているのか半信半疑だったが、それでも自分の行動に納得がいかない、どこか憤ったような無力感を噛み締めるような口振りからは、どうやら彼が嘘をついていない事は確かだった。それに、カエル顔の医者は私と初めて会った時、“事情はわかっているつもりだよ?”と言っていた。これを私は、事件の顛末を操祈ちゃんから聞いたという意味だと思っていたが、本当の意味は違っていたようだった。事情を汲めた事で私達が押し黙ると、どうやらそれまで私たちの剣幕で気後れさせてしまっていたらしいドリーが口を開いた。

「だびにふす……、ってなに?」
「え?あ……、エットエット、死んだ人を燃やしてあの世に送ってあげる事よ」
「もやす……。おなかのきかいも、いっしょにもやしたの?」

ドリーが遠慮がちに不安そうな声で尋ねた。あの機械の存在はドリーにとって大きなトラウマであるに違いなかった。

「いや、そうする前に全て取り除いたよ。あんな物を一緒に持って行くのは嫌だろうからね」
「うん……、いや…… 、だったとおもう。ありがとう」
「どういたしまして……。と答えた方が良いんだろうね?さあ、ここだよ」

そう言ってカエル顔の医者が立ち止まった場所には、確かに“Dolly”と名前が刻まれた小さな墓石があった。一緒に刻まれている日付に誕生日は無かったが、その命日は操祈ちゃんが話してくれたドリーと別れた日と同じであった。あの子が、もう一人のドリーがここに眠っているのはもはや疑いようの無い事実だった。

「あの子は……、ドリーは……、私とお別れした後に、辱められたりは…しなかったのね…?」
「ああ、僕が遺体を引き取ったのはあの子が亡くなって直ぐだ。だから、彼らの実験には利用させてはいないよ」

操祈ちゃんが震える声で噛み締めるように聞いて得た回答は、私たちが喉から手が出るほど強く欲していた言葉だった。あの子が死後にどういう扱いをされたのか、そこに私たちのロクデモナイ想像以外の結末があったなんて夢にも思わなかった。

「そっか……。そうだったのね……、良かったぁ……。よかったよぉ……」

操祈ちゃんは、糸が切れた人形のように膝から崩れてへたり込み、まるで幼い子どもがそうするように、人目も憚らず全てを投げ打つように泣いていた。

「操祈ちゃん……」
「私、ドリーに嘘ついてた事を最期まであなたに謝れなかったわぁ……。だから、ごめんなさい……。ごめんなさいドリー……」
「アンタがそんなだと、コッチまで……、調子、狂うじゃない……。私、私だって……。私、おなかの事見ちゃったからドリーと離れたんじゃない、嫌いになっちゃったんじゃないの……!!それをずっとあなたに謝りたかった……」

私たちはあの時と同じ言葉を吐露していた。私たちはあの子に、もう一人のドリーにそれを伝える機会をずっと欲していた。そうして、墓前で膝をつく私たちをドリーは後ろからそっと抱きしめてくれた。

「うん……、うん。ふたりのきもち、きっととどいてるよ。みーちゃん、みさきちゃん、あのこのこと、こんなにおもっていてくれて、ありがとうーーー」[newpage]
ーーー操祈ちゃんと二人で泣き腫らしてどれだけの時間が経ったのだろうか?周りを見渡すと、カエル顔の医者は気を遣ったのか、いつの間にか霊園からいなくなっていた。あの子を想ってこんなに泣いたのは初めてだったかもしれない。

「みーちゃんも、みさきちゃんも、ホントになきむしさんだね……」
「ドリーの前でだけよ……」
「言いふらしたらダメなんだゾ」

泣き腫らして真っ赤になった私たちの目を、ドリーは“うさぎさんのめみたい”と言ってフニャッと笑った。

「お墓にお供えする花、持って来なかったわね」
「だって、仕方ないわよぉ。こうなるなんて、全然思ってもみなかったもの……」
「そうね……」

そもそも、この霊園に眠っているのは、本来身寄りの無い、誰も訪ねて来る人がいない人たちばかりだ。だからこうして、誰も花を添える人がいない代わりに最初から花畑に彩られているのだろう。さっきからどれだけ時間が経っても私たち以外に誰も訪れる人がいないのは道理だった。だったら、私たちは謝罪の言葉以外にあの子に何を供えてあげられるのだろうか。そうして考え込む私たちに、ドリーが一つの提案をした。

「じゃあ、みーちゃんのイルカさんをみせてあげてほしいな」
「イルカ?」
「おはなじゃなくて、そのひとがすきだったたべものとかぬいぐるみとか、そういうのもおそなえするってほんでよんだの。だから、イルカさんがいいとおもう」
「私からもお願い出来るかしら?」
「ええ、勿論よ」

私は思い出のイルカを形作りお墓の周りを泳がせた。そしてやがて“せっかくこんなにひろいんだから”とせがむドリーに後押しされて、霊園の中全てを海に見立て、先日水族館で一緒に観たイルカショーを見様見真似で再現した。あの時、瓶の中でしか形作る事が出来なかったイルカがこうして広い景色の中を泳いでいる光景は、まるで自由になって外に出られたドリーの姿とダブって見えた。自分で言うのもなんだけど、花畑の中を泳ぎ回る銀のイルカの姿は綺麗だった。

「落ち着いたかな?綺麗なイルカだね」

人の気配がして振り返ると、いつの間にかいなくなっていたカエル顔の医者が戻ってきていた。

「変な気を遣わせたわねぇ……」
「いや、それもあるけど急患が入ってね?緊急のオペに呼ばれて、それを執刀して戻ってきたというわけだね?」
「こんどはどんなしゅじゅつだったの?」

ドリーはまたも臆せずに同じ質問を投げ掛けたが、私はこの人が急患に呼ばれたという時点で嫌な予感しかしていなかった。そして、やはりというべきか、カエル顔の医者はまるで明日の天気予報を答えるような調子でサラリと言った。

「蜘蛛膜下出血だったね?さすがに一日に何度も開頭手術をこなすのは骨が折れるね?」

つい先日まで学園都市の天気予報は100%外れる事の無い予知であったが、どうやらカエル顔の医者は現在もその調子を維持しているらしい。この医者はきっと、例え本当に自分の骨が折れたとしてもあっという間に自力で治してしまう事だろう。そういえば、病院の待合室に置かれた古い漫画の中に、つぎはぎ顔のモグリの医者が自分で自分の腹にメスを入れ、サバンナのど真ん中で開腹手術をする話があったっけ。アレはさすがにフィクションの話だと思っていたが、実際この医者であればやりかねない。

「なんだか妙な想像をされている気がするけど話を戻すね?」

天然の心理掌握持ちはそう言って、崩していた雰囲気を改めた。

「僕が君たちに謝らないといけないと言ったのは、彼女と親しかった君たちをドリーを送る場に立ち合わせてあげられなかった事だ。僕がドリーの事をちゃんと調べて君たちに引き合わせてあげられていたら、きっと、大覇聖祭の事件は起こらなかっただろう?すまなかった…」

確かに、カエル顔の医者の言う通り、自分もドリーを送る場にいられたらという思いが湧き上がらなかった言えば嘘になる。デモデモ、そうするときっと今の結果は得られていないに違いなく、同じ結論に至ったであろう操祈ちゃんが先に口を開いた。

「それは違うわぁ。もし、私と看取さんがここであの子に謝ってそれで終わってしまっていたら、私が幻生の頭の中の陰謀力を覗く機会が生まれなかったかもしれないんですもの。そうなったら、私たちはこうして一緒にはいられなかったわぁ……」
「セキニン、感じちゃってるのかもしれないけど、たとえそうなっていたとしても、私が学園都市にカチコミかけてたのは変わらなかったわよ」
「そうなると、私も共犯力を発揮してたかもねぇ……」
「そうか……。そう言ってもらえると少しは自分の行いが赦された気がするね?ありがとう」

そう言って頭を下げるカエル顔の医者の姿に、私は初めて年相応の弱々しさを見た気がした。そして彼は、“蛇足になるかもしれないが”と遠慮がちに言葉を紡ごうとし、しかし、それを操祈ちゃんが遮った。

ドッペルゲンガーの事……、かしらぁ?」
「そうだね?」

私は操祈ちゃん程にはあの一件に深入りはしていなかったが、事の顛末は聞いていた。だから、その名前が出た時点でカエル顔の医者の言いたい事には察しが付いた。

「言いたい事は何となくわかるけど、それはご想像にお任せするわぁ」
「うん、野暮な事を言うところだったね?」

実際のところ、ドッペルゲンガーの顛末を聞くまでもなく、たとえ記憶と経験を共有していたとしても完全に同一人物とは言えない事を私たちはわかっていたハズだった。とある施設で眠っているドリーを助け出した時、彼女は最初から“わたしたち”と言っていたし、私と操祈ちゃんも”妹はドリー本人じゃない“と了承していた。でも、完全に別人と割り切るのはあまりにもその在り方が思い出と酷似していて、今日この時までズルズルと区切りが引き伸ばしになってしまっていた。

「むー……、なんだかおいてきぼりにされてるきがする…」
「ゴメンゴメン、でも、ドリーが一番よくわかってるわよ?」
「そうねぇ、あの子の事、こんなに真剣に考えてくれたから、私たちもここに来られたんだゾ」
「うん。……ありがとう。また、さんにんでいっしょにくるからね」

私たちはドリーの言葉に頷き合い、霊園を後にした。完全に同じではないけれど、全くの別人でもない。その思いに囚われるのはきっと今日でお終いで、私たちはきっと、こうして新しいやくそくを積み重ねていけると、そう思えたーーー。[newpage]
「ーーーあれからしばらく経つけど、まだ怖い夢は見るのかな?」
「うん、ときどき」
「そうか……」
「でもね、ゆめのことみーちゃんとみさきちゃんにもおはなしすることにしたの」
「そうか。二人が何て言っていたか、聞いても良いかな?」
「うん、やっぱりすごくしんぱいされたんだけど“あのこのこと、はなしてくれてありがとう”って。それにね……」

それに、”きれいなイルカさんをみせてくれてありがとう“って、あのこがそういってくれたゆめをみました。

どっちかなんてえらべない

「ネェネェ、ドリー?早く選ばないと約束の時間に遅れちゃうよ?」
「だってみーちゃん、まさかドーナツにこんなにしゅるいがあるなんておもってなかったんだもん」

そう言ってドリーがシスタードーナツのショーケースと睨めっこを始めてから、かれこれもう5分は経っただろうか。彼女がこうして生まれて初めて目の当たりにしている光景は、きっと私が見ているそれとは異なりまるで宝の山のように映っているのだろう。その証拠に、幼さが残るあどけない少女は、ウンウンと唸りながらアッチに目を輝かせコッチに心惹かれては、時折小首を傾げて幸せそうに思案を続けていた。そんな彼女の様子を、店員はそつなく他の客への対応をこなしつつ笑顔を崩さず生暖かい目で見守っていた一方で、そうして訪れては帰っていく客たちは“あんな真剣に悩んじゃって可愛いよね”等と小声で囁き合い、側から見れば外見年齢不相応な彼女の行動を率直に口にしていた。私としてはドリーが可愛いと形容される事には内心こそばゆいのだけれども、ドリーと同じ顔をした有名人が闊歩するこの学園都市において、これ以上目立つのは出来れば避けたかったのもまた事実だった。しかしながら、これはドリーにとって“はじめてのおつかい”ならぬ“はじめてのドーナツ”であり、一体どこまで彼女の自主性に任せれば良いものだろうかと私は頭を悩ませた。そうこうしている間にドリーは候補をオールドタイプとチョコレートトッピングとに絞ったらしく、しかしそれでも決め切れずにいよいよ縋るような子犬の目をして振り返った。

「みーちゃん、どうしよう……。どっちかなんてえらべないよ…」
「ハイハイ、頑張ったんだから泣かないの。オネーサンがこういう時の選び方を……」

と、私はそこまで口にして、はたと気付いて言葉を止めた。そもそも、私は何故ドーナツを一つに選ばなければならないと考えているのだろうか?

「……私、ドーナツは一つだけ選んでって言ったんだっけ?」
「んーん……、かえるのおいしゃさんのびょういんで、みさきちゃんが“あんまりジャンクフードばっかりたべちゃダメだゾ”っていってたから……」

そういえば入院生活が始まってからそんなやりとりをした覚えがある。それに、あの時もドリーはこんな風に涙目になってたっけーーー。

 


ーーー必要な嘘とはいえ内容が内容だけに心苦しさを覚えつつ、ドリーに纏わる記録と記憶を“実験体は死亡後に廃棄”と書き換えた私達は、とある研究施設から彼女を連れ出したその足で、操祈ちゃんがツテがあると話した病院へと向かった。そこは妹達の保護を引き受ける世界中の機関の中枢であり、また、治療や延命の方針や技術を一手に引き受け提供しているともいう。もし、あの時ドリーを施設から連れ出す事が出来ていれば……と、この期に及んで更なる後悔を覚えなかったと言えば嘘になるが、“それは私だって同じ気持ちよ……?”と、操祈ちゃんがそう言って手を握ってくれた事で、二人で抱えた罪悪感は幾らか和らいだ気がした。
そうして、私達を病院の診察室で出迎えたのは、気の抜けた雰囲気のカエルのような顔をした初老の医者だった。一見すると冴えないカエル顔の医者に対する印象は正直なところ不安だったが、操祈ちゃんが大丈夫と太鼓判を押している以上、それは絶対なのだろう。その上、何かがドリーの本能を刺激しているらしく、部屋に入ってからの彼女はどこかウズウズした様子で目を輝かせていた。

「やあ、待ってたよ?君がドリー君だね?これから君にとって必要な検査を受けてもらいたいのだけど、その前に自分の身体の状態で気になる事はあるかい?」
「うーん……?いたいとかくるしいとかはないけど、これは、おなかがすいてるの?」
「それなら何よりだね?申し訳ないけど、検査には何も食べていない時の方が都合が良いものもあるから、食事はもう少し待ってもらっても良いかな?」
「うん」
「ありがとうね?じゃあ、食峰君は検査に一緒に付き添ってもらって良いかな?」
「もちろんよ」

最初は問診だからそういう口調になっているだけだと思っていたが、どうやらこのカエル顔の医者は疑問系の口調がデフォルトらしい。

「あの、私も一緒に……」
「君も見たところあちこち負傷しているようだからね?彼女の検査をしている間に君の治療について話が出来たら良いと思うね?」

私も同行を申し出たが、カエル顔の医者はどうやら私に用があるらしい。そこで、操祈ちゃんの方を見遣ると彼女は大丈夫と頷いたため、私は状況を受け入れる事にした。とはいえ、だ。

「私の事よりまずはドリーの事を聞かせて欲しいんダケド……」

レントゲンや血液検査等のありふれた検査を一通り終え再び診察室へと戻ってきた私は、まずは自分の事を棚上げにしてドリーについて尋ねた。どうせ検査するならわざわざ別にしなくても、ついでに必要なものを一緒に受けて回れば済む話だ。だから、私をここに残した事には別の意図が感じられた。

「彼女の健康状態や寿命について不安があるんだね?今行っている検査の結果を見ない事には確かな事は言えないが、ここには彼女の妹達の治験があるからね?その上で僕が全力で当たる以上、それは心配しなくて良い」
「良かった……。それでその、妹達は……」
「食蜂君の持って来たワクチンで全員回復に向かっている。それも心配しなくていい。ああ、君の方に事情があるのはわかっているつもりだよ?御坂君にドリー君の事をすぐには打ち明けられないだろうし、今すぐに彼女たちに会って謝罪すべきとも言えないね?ただ、全てが落ち着いた時は話す機会があった方が良いだろう。協力はする」
「……ハイ」

操祈ちゃんは最初に私に会った時、“白井さんに悪いからそのうち自首してもらう”と言ってはいたけれど、その話はいつの間にか有耶無耶になっていた。だから、こうして自分のした事を諭してくれるのは、きっとありがたい話なのだろうと思った。

「その返事がもらえて良かったよ。じゃあ二人部屋を用意するから、君もドリー君と一緒に入院すると良いね?」
「え?なんで私マデ入院?」
「診たところ、顔面の骨折は闇ルートの治療キットで応急処置しただけなんだろう?曲がった鼻がそのまま固着する前にちゃんと治療した方が良いと思うね?」

そう言いながらカエル顔の医者はディスプレイを操作し先程撮ったレントゲンを見せてくれた。そこに写し出された鼻筋は確かに幾らか歪んでおり、私は少し血の気が引くのを感じた。

「これくらいすぐに治るから、そんな深刻な顔をしなくても大丈夫だからね?」
「え?じゃあ何で?」

「君、普段の食事はジャンクフードか軍用レーションばかりだっただろう?病院食でバランスの取れた食生活に触れる良い機会だと思うね?」
(イヤイヤ、なんでそこまで分かるワケ?)
「一通り検査もしただろう?医者だからね?食は医療においても基本だし、やはりきちんと押さえておかないとね?」

まるで噂に聞く心理掌握のように正確にこちらの状況と思考を読まれてしまう。このカエル顔の医者に隠し事をするのは容易では無いだろうと感じた。

「それに、日常生活の経験に乏しいドリー君と一緒に生活して色々と教えてもらえると、こちらとしては入院のサポートに人手を割かなくて助かるね?」
「そっちがホンネっぽいんだけど?」
「でも、君は断らないだろう?」

断らないというより断る理由など幾ら探したところで見付からないのは明白だった。ドリーを病院の個室に残してまた一人にさせるなんて、とてもじゃないが考えられない。

「ハイ、お願いします……」
「よろしい。さて、そろそろ時間だね?」

カエル顔の医者がそう言うやいなや、診察室のドアが開いて二人が戻ってきた。

「ただいまみーちゃん!!」
「はいはい、病院で大きな声出しちゃダメよぉ?」
「お疲れ様だったね?後は詳しい結果を分析して治療プランを立てるから、今日のところは用意した部屋で休むと良いね?」
「みーちゃんとみさきちゃんは……?」

先程の懸念は正にドンピシャで、施設で独りで過ごしていた時の記憶が想起されたのか、ドリーは不安そうな声でそう言った。

「私も一緒に入院して、この曲がった鼻を治しなさいだって」
「わーい、みーちゃんといっしょだー!みさきちゃんもいっしょににゅういんするの?」
「私はしないわよぉ。貴方たちの新居の準備もしなくちゃいけないし」
「貴方たちのって、操祈ちゃんは?」
「私は学び舎の園に寮があるし……」
「みさきちゃんはいっしょじゃないの……?」

はしゃいでいたドリーは一転して目を潤ませ、私達を交互に見遣った。別に同居しないからといって今生の別れになるわけではないが、”さんにんいっしょ“という彼女のささやかな願い事を無下にしてしまうのは気が引けた。この際、無防備なドリーと二人っきりだと、そのうち我慢出来なくなってオソッチャイそうだから……、とでも言ってしまおうか?等と操祈ちゃんを引き留める方法を思案していると、彼女はフッと笑ってため息混じりにこう言った。

「もぉ……、わかったわよぉ。ホント、ドリーは我儘力が強いんだから」
「案外アッサリ折れるじゃない?」
「そりゃあ面倒力は掛かるわよぉ?でも、断る理由なんて無いんだもの」
「そうね……、そうよね」

私達は多分、もうドリーを独りにしておけないというだけじゃない、私達自身もまたドリーと離れたくないと思っているに違いなかった。

「さんにんいっしょにいられるの……?」
「そうよぉ。私はお家の準備をしておくから、ドリーは入院してる間、カエルのお医者さんや看取さんのいう事をちゃんと聞かなきゃダメだゾ」
「うん!!わたし、たいいんしたらさんにんでかわのじになっておふとんにねころがるのやってみたい!!あ、あとね、おふろでせなかのながしっこっていうのも!!」
「はっはっは、楽しみな事が沢山あって良いね?じゃあ、そのためにも僕も頑張らないとね?」

そうして私達は一週間ほど入院生活を送った。ドリーの肉体は基本的には他の妹達とほぼ同一であるらしく、新陳代謝や成長速度の調整は同様の手順で滞り無く進められた。一方で、知識量の差は大きく開いており、カエル顔の医者からは“調整の一環として学習装置を使った知識や概念の学習は可能だよ?“と一応伝えられはしたが、私と操祈ちゃんはそれを断った。研究所の外で見て聞いて触れるモノ全てが新鮮なドリーからその機会を奪うのは嫌だったし、何よりもドリー自身が私達と一緒にそれを経験する事を望んだ為だった。それをカエル顔の医者に伝えたところ、”そう言うと思って全く準備してないから問題無いね?“と悪びれもせずに返されてしまい、私達はただただ気が抜けて苦笑いするしかなかった。
だからそう、ドリーにとってドーナツに真剣に悩む事も大事な経験の一つだったーーー。

 


「ーーーしょうがないなー、そんなに悩むんだったらドッチも食べてみる?」
「え!?いいのみーちゃん!?」
「だって、今しか出来ないでしょ?」
「ありがとう!みーちゃん!」
「ちょっと、だから人前でそんなくっつくのはっ!」

ドリーは相変わらず手を繋いだり抱き付いたりといったスキンシップを好んでおり、それは人前に出ても変わらなかった。もちろん、私はそれ自体が嫌というわけではなかったのだが、頬を赤らめたお嬢様学校の生徒達からの好奇の視線やヒソヒソ話に晒されるというのはあまり気分の良いものではなかった。ただ、この状況をドリーに説明するには色々と先に教える必要があったし、段階を飛ばして刺激的な少女漫画を教材にするというような事は止めようと二人で話し合って決めていた。

「と、とにかく、アイツのことだからどうせまた“ジャンクフードばかり食べてるとお肌に有害力が強いんだゾ”とか言いそうだけど、まあ、言わなきゃバレないわよ」
「あははー、みーちゃんってばみさきちゃんそっくりだー。じゃあ、みさきちゃんにもおみやげえらばないとね。どれにしよっかなー」

話題を変えようと操祈ちゃんの話を振ったところ、ドリーはそう言ってお土産選びに悩み始めてしまった。つまり振り出しに戻ってしまったワケで、墓穴を掘ってしまった状況に内心苦笑しつつ、このままでは今度こそ待ち合わせの時間に間に合いそうにないため私は助け舟を出す事にした。

「ホント、ドリーはワガママ力が強いんだから」
「むー、みーちゃんってば、みさきちゃんとおんなじこといってるー」
「アハハ、ごめんって。ネェ、ドリー、私もお土産選び手伝って良い?」
「うん!あ、そうだ、あのあながあいてないのもドーナツなの?」
「ドレドレ……。あー、カスタードクリームね。良いんじゃない?アレもさっきドリーが選んだのと一緒で、まあ基本的なドーナツってヤツよ」
「じゃあそれにするー。おねえさん、これもみっつください!」

こうして、ドリーの初めてのドーナツ購入体験は無事終わった。私が調査報告をしている傍らに見せてくれた、ドリーが両手に持った初めてのドーナツを交互にモグモグしている光景は、何とも形容し難い幸福なモノだった。そして私は、お土産として用意されたもう一つの紙袋を見遣りながら帰ってからの事に思いを馳せた。
ソウソウ、結局、私達はドリーが退院した後、操祈ちゃんが手配したマンションで三人いっしょに暮らし始めた。各々に個室は用意され、それぞれ寝具も置かれていたのだが、私と操祈ちゃんのそれは殆ど使われる事はなく、ドリーの選んだ少し大きめのダブルベッドだけがその役割を任されていた。そして、“ちょっとせまいね”と嬉しそうにはにかむドリーを真ん中に、三人で川の字に寝転んで夜を過ごすのがそれからの日課になった。私達はきっと、側から見れば互いに依存しているのだろうという自覚はあった。彼女の最期に立ち会えず、喪に服する心の余裕も無く復讐のために明け暮れた私の前に、奇跡は願ってもないカタチで現れて、それで平静でいろというのは土台無理な話だった。操祈ちゃんとそれについて相談しないわけではなかったが、今だけはこの蜜月の時を過ごしても罰は当たらないだろう、と問題を保留にした。それに、そもそもこの街には罰を与える神様なんてきっといないハズだ。だって、ドリーを散々苦しめた学園都市の科学者は罰なんてチットモ受けていないのだから、こうしてドリーが一日に沢山ドーナツを食べるくらいで罰なんて当たりようがないのだ。

「あははー、みさきちゃんほっぺにクリームついてるー」

オーガニック食材マニアの常盤台生粋のお嬢様にとって、ドーナツにかぶりつくなんて経験はこれまでしたことが無かったに違いない。しかし、それがドリーの選んだお土産とあっては断るべくもなく、そのおかげで、“え?どこぉ?”という無防備な問い掛けへの返答代わりに、“んー、ここー”と頬に付いたクリームをドリーにぺろっと舐め取られ真っ赤になってアタフタする女王サマという珍しい光景を拝む事が出来た。

「もぉ、操祈ちゃんったら真っ赤になっちゃって。免疫力無さ過ぎだゾ」

そう言って私が女王サマをからかうのを楽しんでいると、未だ頬を赤らめたままの彼女の目が怪しく光り、そしてほくそ笑みながら何かをドリーに耳打ちした。

「あ、ホントだ。みーちゃんにもついてる」
「え?マッテマッテ、まだ心の準備が……!!」
「アラアラ、看取さんってば真っ赤になっちゃって。ヒトノコト言えないんジャナイ?」

私は頬をくすぐる感触に悶えながら、今度からは、人前でこういう事をしちゃダメだってちゃんと説明しておかないとなと思った。ドリーに教えてあげなきゃいけない事はマダマダ沢山ありそうだ。