六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

話数単位で選ぶ、2016年フリップフラッパーズ13選

①2016年1月1日〜12月31日までに放送された『フリップフラッパーズ』から選定。
②1作品につき上限13話。
③順位は付けない。

放送日時順で記述。各話あらすじと見所を手短にレビュー。

フリップフラッパーズ』1話「ピュアインプット」
‪祖母と二人暮らしの中学二年生の少女"ココナ"は、進路を決められず、迷う日々を送っていた。そんな彼女の元に、突然、"パピカ"と名乗る破天荒な少女が現れ、二人はピュアイリュージョン(以下、PIと表記)と呼ばれる不思議な世界へと迷い込む。そこには、見た事のない一面の銀世界が広がっていた。‬
‪アバンのパピカ脱走シーンから分かる通り、テレビシリーズとは思えないレベルで、とにかくアニメーションが動く作品。シナリオ面は、「やっと見つけた」「ココナみたいな匂い」等、終盤になってようやく(視聴者にも、パピカ本人にとっても)意味の分かる台詞も多く、Cパートの解答は10話においてようやく明かされた。‬

フリップフラッパーズ』2話「ピュアコンバータ」
‪目を覚ましたココナを、いつもと変わらない日常が迎える。冒険は夢だったのかと訝しむココナだが、そんな彼女の元にパピカが再び現れる。PIへの冒険を拒絶するココナだが、彼女の大切な宝物"ユクスキュル"がそこへ迷い込んだことで、二人は再び不思議な世界へと吸い込まれていく。‬
‪PIの美術設計が1話のモノとは全く異なり、このアニメが並の労力では作られていない事を窺い知ることが出来る。また、後の話数で明かされたPIの正体から、今回はユクスキュルの心象が反映されている事が分かる。兎モチーフのデザインはその影響と思われるが、同時に『不思議の国のアリス』を連想させる。‬

フリップフラッパーズ』3話「ピュアXLR」
‪砂漠を彷徨い歩くパピカを助けたのは、小さな井戸を頼りに暮らす、小人たちの集落だった。ココナとはぐれたパピカは、空から落ちて来た流れ星の話を聞き、それがココナだと確信する。同時に、集落を野盗が襲撃し、パピカはこれを迎撃するが、野盗を牛耳っていたのは、呪いの仮面に操られたココナだった。‬
‪1、2話とは打って変わり、冒頭からPIでの出来事が描かれる。本作初となる本格的な戦闘シーンが描かれ、キャラクターたちが所狭しと動きまくる。また、変身バンクも初公開となり、こちらの描き込みも凄まじい。ストーリーでは、ココナの幼馴染み"ヤヤカ"が本格的に物語の本筋に介入してくる。‬

フリップフラッパーズ』4話「ピュアイコライゼーション」
‪「インピーダンスがぶれっぶれ」PIではぐれた理由をこう説明され、二人はお泊り合宿する事に。見掛けに反し、女子力や生活力の高さを見せるパピカに対し、何も出来ないと落ち込むココナ。そんな彼女をパピカが励まし、二人の距離が縮まっていく。そして二人は、夜空を見上げながら、流れ星に掛ける願い事を口にする。‬
‪本作初となる、PIでの冒険のない日常(?)回。これまで漠然と「集めれば願いが叶う」等と説明されてきたカケラ(アモルファス)だが、パピカが「内緒」、‬ココナが「家族に会いたい」と語った願い事が、物語の行く末を示唆する重要なキーワードになっている。日常回だが、細部まで描き込まれた画作りは健在。

フリップフラッパーズ』5話「ピュアエコー」
‪見慣れた学校の景色とどこか似通った非日常。礼拝、読書、お茶会、そして、刺繍…、止まない雨が降る中で、繰り返される甘美な世界。「雨…好き…」「私も…割と好き…」指を絡めてそう囁いた二人は、潤んだ瞳で見つめ合い、夜の眠りに落ちて行く…。しかし真夜中に、ヤヤカがココナに覆い被さり…?‬
‪これまで控えめに(?)描写されていた百合要素が、前面に押し出された一話。しかし、演出は完全にホラーアニメのそれで、部屋の明かりを調整して視聴する事により、二人が如何に"親切な級友たち"に囲まれ、日々を過ごしていたかを知る事になる。3話に続き、クライマックスの時計塔でのアクションも必見。‬

フリップフラッパーズ』6話「ピュアプレイ」
‪家庭崩壊と分裂する自我、逃げ込んだ先の優しいおばちゃん、手の震え、忘れていく日常、放置された郵便受け、繰り返される若年の思い出話…。「あなたは…どちら様でしたっけ?」そして、少女は逃げ出した…。PIの深部で、ココナとパピカは少女"いろ"となり、彼女の世界を追体験していく。‬
‪PIとは一体何なのか、それが朧げに明かされた一話。"いろ"がおばちゃんに再び出会い、世界が文字通り色付く光景は、言葉にならない感情を引き起こすと思う。しかし、この物語の顛末が次回で語られた事により、ココナ(と視聴者)はPIが現実に及ぼす影響とその是非を巡り、深く悩まされる事になった。‬

フリップフラッパーズ』7話「ピュアコンポーネント
‪かつて"いろ"だった少女は、誇らしげにマニキュアを塗った爪を二人に見せる。そして、描いていた絵を棄てた。PIでの出来事が彼女を変えてしまったのか…。思い悩むココナは、訪れたPIでパピカとはぐれ、誰もいない街を彷徨う。そんな彼女を、様々な姿をしたパピカたちが誘惑していくが…。‬
‪その人の為人や才能、魅力は、通り一遍の価値基準では測ることが出来ない事を突き付けた一話。再びPIの深部へと落ちかけたココナ。その手をパピカが捕まえた瞬間、ココナは誰が迷子になっていたかに気付く。変わらないハズのパピカを想うココナ…。そしてパピカは、シロツメクサの花冠をココナに被せた。‬

フリップフラッパーズ』8話「ピュアブレイカー」
‪プールに落ち、ぶーちゃんに激突した二人が飛ばされたPIは、機械仕掛けの大都市だった。二人は、カケラが生み出した怪物に苦戦を強いられ、都市を管理する科学者に助けられる。彼から、変形メカ"ヴェルメリオン"と"ブラウアズール"を託され、二人が魂の叫びを上げた時、ロボットが真の姿を現した!!‬
‪まさかのスク水×戦隊シリーズ巨大ロボ。細部まで描き込まれた変形合体シーン、よく聴くと本編にマッチした熱い挿入歌、ツンデレ全開のヤヤカ等、見所満載。しかし、Cパートのパピカの一言は、それらの余韻を全て吹き飛ばした。ちなみに、挿入歌の歌詞が、テレビ放送版とweb配信版(及びサントラ音源)で一部異なり、前者は「インピーダンスが高まっていく時」、後者は「インピーダンスが合わさっていく時」となっている。‬

フリップフラッパーズ』9話「ピュアミュート」
‪パピカが自分に他の誰かの面影を重ねてる…。互いにギクシャクしたまま二人が飛ばされたPIは、何も無い世界だった。カケラの防衛トラップに囚われたココナが脱出を試みる一方、パピカと対峙するヤヤカ。彼女は、激昂してココナへの想いを叫び、パピカを下す。そして、自らの思い出を砕きながら、ついにはココナへとナイフを突き立てるが…。‬
‪ヤヤカの過去と覚悟が明かされた、観ていて辛い一話。ヤヤカの肉弾戦の描写は、蹴りの後によろめき、バランスを整える様に至るまで緻密に描かれ、重みと痛みを感じさせる。何も無い真っさらな世界は、ココナを捕らえて放そうとせず、鏡は二人の思い出を写していく。ここは、ヤヤカの心象なのだろうか…?‬

フリップフラッパーズ』10話「ピュアジッター」
‪「ヤヤカが友だちで良かった」今までと変わらず声を掛けてくれるココナに対し、真実を打ち明けようとするヤヤカ。しかし、アスクレピオスの双子の介入はそれを許さない。基地からの脱出の最中、「自分だけ何も知らない…」と言って立ち止まるココナに対し、パピカはかつてのパートナー"ミミ"との思い出を語り始めるが…。‬
‪これまで謎に包まれていた、"ミミ"と呼ばれる少女の過去の一端が明かされる一話。回想の中でも今と全く変わらない姿のパピカに対し、幼い頃のソルトが登場した事で、これがかなり以前の出来事である事を窺い知る事が出来る。繰り返された日常こそが偽りであったという展開は、視聴者に大きな衝撃を与えた。‬

フリップフラッパーズ』11話「ピュアストレージ」
‪ココナの姿を借り、暴走を続けるミミ。彼女は、アスクレピオスを壊滅させ、ソルトとパピカまでもを追い詰める。「私を止めて…」そうソルトに言い残し、PIへと姿を消したミミとココナ。PIに介入した事…パンドラの箱を開けた事…ミミが外へと飛び出した事…、‬全ての始まりは、ミミの胸に抱かれた幼子だった…。
アスクレピオスの目的、パピカとミミ、ソルトの関係性、そして、ココナの生い立ち…、あらゆる伏線が回収され、物語の中心は、PIを巡る冒険から、ココナの内面へと舞台を移す。新規劇伴がミミの愛情と狂気を彩り、非常に緊迫感のある演出がされていると思う。今回、パピカが初めて泣き崩れた様が心を抉る。‬

フリップフラッパーズ』12話「ピュアハウリング
‪ミミに囚われたココナを助けるため、パピカとヤヤカは、ソルトに託されたアモルファスを手に、これまでに巡ったPIを駆けて行く。数々の防衛トラップに行く手を阻まれる中、二人は砂漠で対峙した化物に追い詰められる。その時、アモルファスが輝き出し、ヤヤカは、自分の最も大切な宝物の名前を叫ぶ。‬
‪それとなく本編中でも何度か示唆されていたヤヤカの変身が満を持してついに描かれた。30秒のノーカット版を是非とも観てみたい。ソルトがペンダントにしていたミミの欠片は、パピカに託されてから黒ミミに取り込まれた後に「もう要らないから」とココナの涙の形で再度ソルトの手に渡ってる。それが今度はヤヤカに託され、ヤヤカの変身、ココナとパピカへの励ましに繋がってる。

フリップフラッパーズ』13話「ピュアオーディオ
‪「私と友だちになって!!」‬
そうして、幼い日のパピカとココナは、再び出会い手を繋ぎ、冒険が始まった。
「ココナ/パピカのことが大大大好きだから!!」
そうして、二人はこれからも手を繋いで、冒険は続いていく。

以上、13話。

今月の料理 2016年11月

twitterにアップしたモノから抜粋。せっかくなので残してく事にした。何百匹も魚捌いてきて、ようやくお造りの盛り付けをどうすれば良いか分かってきたという。

 

煮込みハンバーグ

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ローストポーク

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鳥はむラーメン

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豆アジの南蛮漬け

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秋刀魚の握りとお造り

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クリームボックスっぽいの

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アジの握りとお造り、なめろう

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手羽餃子

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おいもあいす

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『株式会社カラー10周年記念展』見どころレビュー

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『株式会社カラー10周年記念展』に行って来ました。 11時ギリギリの到着で、13時からの入場整理券に滑り込み。2日目からはどうなるかは分かりませんが時間に余裕を持って行った方が良いと思います。写真撮影はOKですが、接写はNGです。ただ、写真だと凄味がイマイチ伝わらないのでここでは殆ど掲載しません。是非観に行って下さい。

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展示スペースは大きく分けて下記の通りです。

ヱヴァンゲリヲン(序、破、Q、その他雑誌表紙等の原画、設定資料、イメージボード等)

②10周年記念作品『おおきなカブ』(数分の短編作品を常時上映、及び、設定資料や原画) 

③特撮展示(『シン・ゴジラ』雛形、『巨神兵』撮影用スーツ、特撮博物館保存資料)

④アニメーター見本市(カラーが制作に関わった作品をモニターで常時再生、原画や設定資料等)

⑤物販コーナー(会場限定のTシャツやカレンダー、その他、エヴァストアで取り扱われているグッズ)

 

①原画や設定資料は書籍では小さなサイズで収録されているようなモノに関しても、用紙を何枚も貼り合わせて描かれた原画やイメージボードをオリジナルのサイズで見ることが出来ます。写真はQのラストシーン、実際の絵は写真よりも奥行きというか凄味がありましたね。

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安野モヨコさんのエッセイ漫画『監督不行届』の番外編です。今回の10周年記念展の為に描き下ろされた漫画は来場特典の冊子に掲載されている他、会場にも原画が展示されています。肉も魚も食べないおじいさんが自分で食べる野菜を作る為、仲間たちと畑を耕すことになった、というお話です。本気でジーンとくる内容でしたが、超・おじいさんが登場した場面ではかなり笑い声が上がってましたね。この作品を観るだけでも行ってみる価値があるのではないでしょうか? https://twitter.com/virtualboys/status/801432575487029248

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③最大の目玉はやはりゴジラの雛形。しかし、特典冊子の監督インタビューを読むとその他の特撮資料に対する見方が変わるのではないかと思います。ウルトラマンは何も監督の趣味で展示されているわけではなく、特撮というジャンルの今後にとってかなり切羽詰まった状況に立たされているが為の展示なのです。あと、当然のように丁重に扱われている電柱のミニチュア。

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④最新作『機動警察パトレイバー REBOOT』まで、カラーが制作に関わった作品の資料が展示されています。本編映像も常時再生されていますがスピーカー越しによる音声の聞き取りには限度があるので、あくまで、視聴をしながら展示してある原画と比較してみよう、という趣旨なのではないかなと思います。

 ⑤かなりの人集りで、自分は何も買わずに出てしまったので割愛。以前持っていたネルフのマグカップを割ってしまいそれから買い直していないので、そのうちエヴァストアには行きたいと思ってます。 

物販ではないですが、来場特典冊子はかなり中身が濃いです。これだけでも500円じゃ買えないレベルの代物になってます。どのスタッフへのインタビュー記事もアニメ制作の現場についてかなり踏み込んで書かれているので、とても読み応えがありました。個人的な感想ですが、『おおきなカブ』では作品を畑で採れるカブに見立てストーリーが展開されたわけなのですが、自分は、アニメって料理みたいなモノだと思ってます。レシピを書いて(脚本やコンテ)、調理器具を準備して(画材やソフトウェア)、お皿を用意して(背景)、食材を採ってきて(原画)、ソースをかけて(色彩設計)、調味料を振って(効果音)、そして、調理するシェフがいる(監督)…というように。で、特撮資料の保存の話とも関係するんですけど、アニメ業界もそれらの作品を構成するモノに対してもっと価値を付けていくべきだと思うんですね。昔の作品の原画は処分されていたなんて話を聞くと、「そんな!!勿体無いじゃん、売ってくれよ!!」って思うファンの人は多いのではないでしょうか。脚本もコンテも原画もアニメになる前の食材として味わってみたい、自分はそんな風に思ったりするわけです。だから、こういう展示企画も楽しいのではないかな、って。

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最後に、超・おじいさんからの御祝い。

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王道ファンタジー『魔法使いの嫁』その魅力

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「羽鳥チセ15歳。身寄りもなく、生きる希望も術も持たぬ彼女を金で買ったのはヒト為らざる魔法使いだった……。」
公式サイト紹介文より。

たまには、じっくりと作品の紹介でも。最初は、最近推している『魔法使いの嫁』から。

世界観
現代のイングランド、絶滅寸前とも言われる魔法使いの世界。生きることへの希望を失ったチセが、オークションへ自らの身を委ねる事から物語が始まる。作者は『ハリーポッター』シリーズに影響を受けているとコメントしているが、個人的には『ゲド戦記』の雰囲気に近いように思う。魔法使いや魔術師が集まる学院(カレッジ)の存在は言及されているが、今はまだエリアスに師事し、魔法だけでなく世界の有様を学んでいる段階。描かれる世界の理や情景の緻密さによって、ファンタジーでありながら、この世界が確かに存在すると思える、それが大きな魅力であると思う。
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魔法
世界の理に直接アクセスし、手順を飛ばして結果を引き出す力とされる。代償として魔法力を必要とするが、これを隣人達(妖精)に借りる事で、これを行使する。借りなくても可能だが、負荷が大きい。
チセは周囲の魔法力を集める"夜の愛し仔"と呼ばれる特異体質であり、その無尽蔵の魔法力を実験、研究の為に利用しようと、魔法使いや魔術師によって狙われる立場にある。
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魔法使いと魔術師
劇中では、前者はパソコンのシステムへのアクセス権限持ち、後者はハッカーと比喩される。最高レベルの技術を持つハッカーは、実際にウィザードと呼称される事があるが、それを逆輸入した形での説明。なお、劇中では未だ言及されていないが、タイトルより魔法使いの英語表記は東方の三賢人の語源でもある、祭祀階級を指す言葉、Magiであるようだ。物語の中では、ところどころ、かんたんエリアスとでも呼称すべきデフォルメ絵により、こういったコミカルな説明が入る。
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キャラクター
2人の行く末にも注目だが、古き神や妖精(隣人達)、人目に止まらない魔法の生物等、世界観を彩る様々なキャラクターが登場する。
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ことば
最後に、個人的には、世界観と並ぶほどのこの作品の大きな魅力であると思う。隣人達を寄せ付ける体質の為、家族が離散したチセ。異形の存在として、ヒトの気持ちがわからないというエリアス。異なる理由で互いの心に踏み込む事が出来ない2人だが、周囲の後押しや迫り来る危機を前に、コミュニケーションが不得意であるが故のストレートな気持ちを、ゆっくりと言葉にしていく。
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魔法使いの嫁』お薦めです。

『君の名は。』気になった演出箇条書き

君の名は。』については、SF考証やシナリオの解釈等、小難しい話ばかり書いていたので、ちょっと息抜きに、細々とした気になった演出について書いていく。ネタバレOKという方は下記へスクロール。




















・瀧の手の平に書かれた「みつは」
終盤、三葉が瀧の手の平に名前を書く前にカタワレ時は終わり、それは叶わなかった。しかし、最初の入れ替わりの時、実は三葉は瀧の手の平に名前を書いている。初見だと何とも思わないシーンだが、2週目だと…。

・笑いが起こるシーン
生写真付き巫女の口噛み酒、「あいつに悪いか…」からのいつもの、おっぱい揉んで感涙する瀧とドン引きする四葉、共通してるのはこの辺。

ブラックベリー花言葉
お婆ちゃんと四葉と一緒に御神体に行く途中、お茶を飲むシーンの画面右端に映り込んでるブラックベリー(と思われる植物)。花言葉は「人を思いやる心、あなたと共に、素朴の愛、孤独、嫉妬」。それぞれ三葉の心情とよくリンクしてると思う。この時の三葉は、ちょうど奥寺先輩とデートの約束を取り付けているハズだ。植物にあまり詳しくないので、他にどんなモノが描かれているか分からないが、アニメの画 面に映り込むという事は、何らかの意味を持たせての事だろうと思う。

・デートコースの選定
奥寺先輩の反応から、昼食を食べたカフェを選んだのは彼女ではない事がわかる。また、瀧でもないようだ。デートコースの選定が三葉だとすれば、郷愁写真展を選んだのもそうだという事になる。

・繰り返される月のカット
瀧が三葉に電話をかけた時に電線に裂かれている満月、飛騨へ向かう瀧の三日月のTシャツ、御神体で三葉に再会した時、瀧が手を伸ばした薄い三日月。これらは2人の距離のメタファか。

・『なんでもないや』歌の入りでの暗転
前奏時、登場人物のその後が数秒ずつ挿入され、四葉のカットの直後に画面が一瞬暗転し、瀧と三葉のシーンに切り替わる。ここでスタッフロールか…と思わせてからのエピローグ。狙ってやってるとしか思えない。

・瀧の涙
2人がカタワレ時の御神体で再会した時、ポロポロと涙を流して喜んだ三葉に対し、柔らかく微笑んで見せた瀧。しかし、御神体に辿り着いた時、再び入れ替わった時、3年前に三葉に出会った事を回想した時、瀧は結構な頻度で彼女を想って泣いている。そんな瀧が三葉の前で初めて涙を見せたのは…。

※何か思い出したり思いついたりしたら順次追加していく。

超ひも理論と神隠し、隠り世の宇宙が紡ぐ交換日記『君の名は。』考察と感想 修正版

大筋の内容は前回の記事と変わりませんが、あの記事を書いた段階では、まだ映画を一回観ただけで、小説版すら未読という状態だった為、記憶違いや時系列に関する勘違いがありました。それを修正して但書を付けていく作業を続けても、だんだん読み辛くなっていきますし、またあれから考える事もあった為、別記事として残します。例によってネタバレ全開なので、未視聴の方は注意して下さい。今回は『another side』のネタバレも含みます。なお、前回の記事はコチラです。↓
ker-cs.hatenablog.com




















まず、自分が観た上でのシナリオの流れと解釈はこうです
・三葉の時間で瀧との入れ替わり生活が始まる
・三葉、瀧と奥寺先輩のデートを取り持ち、涙を流す
・三葉、瀧に会いに上京し、3年前の瀧に組紐の髪留めを渡す
・三葉、彗星が落ち、隠り世で瀧を待つ
・瀧、彗星が落ちる景色を観る
・瀧の時間で三葉との入れ替わり生活が始まる
・瀧、奥寺先輩とのデートで訪れた写真展で、三葉の住む場所が飛騨である事を知る
・2人の入れ替わり生活が唐突に終わる
・瀧、三葉に会いに飛騨へ向かい、彼女が、もういない事を知る
・瀧、御神体で三葉の口噛み酒を飲み、隠り世へ入る
・再び入れ替わり、瀧、彗星の落下から住民を避難させる為に奔走する
・瀧と三葉が黄昏時の隠り世で出会い、瀧が三葉に髪留めを返す
・三葉が奔走し、その後、彗星が落ちる
・2人は隠り世から現世に戻り、お互いの名前と入れ替わりの記憶を失う
・瀧の時間で5年後、2人は再会する

上記について補足していきます。まず、下のカットから分かるように、星が落ちて三葉がいなくなった世界でも、彼女は髪を切り、髪留めを付けていません。劇中で彼女の友人が言っていたように、瀧と奥寺先輩のデートを後押しした事で失恋し、それで髪を切ったのでしょうか?そして、瀧に会うことは出来なかった為に、彗星が落ちて死んでしまったのでしょうか?これは違うと思います。なぜなら三葉がいなくなった世界でも、瀧は彼女の髪留めを持っているからです。三葉は、彼女がいなくなった世界でも、瀧に会って髪留めを渡しているハズです。
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あらすじの中で自分は、三葉が隠り世で瀧を待っていた、と書きました。これは、この作品の根幹を支えるSF理論が、いわゆるタイムパラドックスとは少々異なると考えた為です。その説明は、劇中で一葉おばあちゃんから語られた事が、そのまま答えになっていると思います。まず、御神体へ口噛み酒を御供えする道中、おばあちゃんは、「よりあつまって形を作り 、捻れて絡まって 、時には戻って 、途切れ 、またつながり 。それが組紐 。それが時間 。それが 、ムスビ 」と時間の流れの様を組紐に例えて語っています。これはSF作品においてパラレルワールドの説明にも用いられる、"超弦理論(超ひも理論)"を指していると考えられます。
超弦理論とはいったいどんなものなのか、ざっくり言えば、素粒子を一本のひもとして考え、高次の次元をそのひもの中に巻き込まれたものとして考える、というモノです。また、オープニングで歌われた『夢灯籠』の歌詞の一節「5次元にからかわれて」の5次元とは、超弦理論で取り扱われる、空間を指す3次元に時間を加えた4次元、それらの高次元にあたる"別の宇宙"を指していると思われます。それが、SF作品においては、パラレルワールドとして扱われたりするわけです。超弦理論の予想によれば、高次の宇宙を支配する法則は、この宇宙の法則とは全く異なるらしいのですが、それは逆に、後述で説明する世界の特徴と一致していると言えます。※超弦理論に関しては、この作品に関連するところだけピックアップして記述しています。全貌が気になる方は、是非、調べてみて下さい。
さて、次におばあちゃんは、隠り世について話をしました。これは、日本神話にも表れる"現世と幽世"の話そのままです。幽世には現世とは違う時間が流れているといいます。どちらの話も劇中で同一人物から語られた事から、一貫性が示唆されていると思います。そして、これらの話を統合して考えると、本作においては、この隠り世こそが高次の別の宇宙に当たるのではないでしょうか?ところで、カクリヨの表記について、"隠り世"と"幽世"と定まっていませんが、これはミスというわけではなく、小説版を読むまでは、自分は"幽世"の方の表記だと思っていました。文字通り、死者の世界としての意味合いが強い表記です。しかし、小説版を読み、劇中の表記が"隠り世"であると知った事で、その意味合いはやはり、死者の世界とは異なるモノだという認識が強まりました。また、口噛み酒を飲んだ瀧が見たイメージの中で、彗星が龍の形を取る場面があります。『another side』によると、宮水神社が本来祀っていた神とは、この彗星であり龍でした。この解釈が劇中においても適用されているのであれば、彗星によって糸守にもたらされた災害とは、すなわち、神によって人々が隠り世に連れていかれた事、と置き換えることが出来るのではないでしょうか。つまり、神である彗星による神隠しです。劇中で三葉は、瀧との入れ替わりによって3年後の糸守の有様を目の当たりにした時、彗星が落ちた時の事を回想しています。つまり、あれは既に起こった事なんです。劇中で描かれた三葉の暮らす世界とは、現実の3年前の世界ではなく、隠り世の世界だったのではないでしょうか?小説版第六章のタイトルは「再演」となっています。糸守に彗星が落ちるのは、1200年前から数えて2度目ではなく、実は、3度目だったのではないでしょうか?

タイムパラドックスと少々異なると言った理由ですが、瀧が最後に御神体の側で目を覚ました時、彼が三葉の名前はおろか、彼女との事を覚えていなかったからです。一見すると、三葉と瀧の入れ替わりをキッカケとして、彼女が瀧に会いに行き縁が結ばれる、というタイムパラドックスが原因のように思えます。しかし、三葉の運命が変わったのは、彗星が落ちた後の話であり、その前の入れ替わりの出来事の記憶は消えないハズです。この事から自分は、2人が記憶を失っているのは、時間を隔てて縁が結ばれたからではなく、現世と隠り世を隔てて縁が結ばれたからだと考えました。原因はタイムパラドックスではなく、隠り世での事を現世に持って来られなかった為ではないでしょうか?実際、劇中でもおばあちゃんが、「此岸に戻るには」「あんたたちの一等大切なもんを引き換えにせにゃいかんよ 」 と語っています。これは、あの時の2人にとって、互いに結んだ関係性以外に有り得ません。
黄昏時では隠り世の人に出会えるともいいます。御神体の側で瀧と三葉が出会った時、背景の隕石湖は一つだけでした。つまり、瀧が三葉の世界に足を踏み入れています。瀧がこの時出会ったのは、時の流れが異なる隠り世で、彼を待ち続けていた三葉だったのではないでしょうか?

自分は、以前の記事で2人の関係について、"交換日記から始まる遠距離恋愛"と比喩しました。この比喩の意味するところは、言った自分でも最初はよく分かっていませんでした。入れ替わり生活を通して互いの事を深く知り、その時の出来事を日記に付けていた事を指して、文通での交換日記を通して互いに惹かれていく様のようだ、と、そう表現していました。しかし、劇中で瀧が三葉に出会った時、「凄く遠いところにいた」と言っていた意味を考えた時、自分が遠距離恋愛と表現した意味がわかりました。これは"新宿と飛騨"という物理的な距離や"3年"という時間的な距離ではなく、それ以上に、"現世と隠り世"という霊的な距離を指していたのではないでしょうか?本当にどうしようもなく遠い距離です。ただし、上記で考察した通り、この作品において隠り世とは、死者の世界ではなく、神話の中に表れる"神に隠された世界"であり、同時に、超弦理論が示す"高次の宇宙"であると思われます。それは、黄昏時という言葉が示す通り、昼でも夜でもない曖昧な状態の時間であり、"シュレディンガーの猫"のような、可能性の定まっていない重なり合った世界なのではないでしょうか?
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これを踏まえると、三葉が瀧と奥寺先輩のデートを後押しした時、「今日のデート、私が行くハズだったのにな…」と言って涙する意味の重みが大きく変わってきます。初見だと、"本当は、私が瀧くんとデートしたかったのにな…"と捉えられる場面ですが、実際は、もっとどうしようもない感覚に対する涙であったように思います。そして、上京した三葉が電車に乗る瀧を見つけ、赤面して俯きながら「瀧くん…。瀧くん…。」と繰り返し呟く場面。本当に愛おしそうに、何回も名前を呟く場面。この時、彼女にあったのは、この広い東京で彼に出会えるわけがなかったのに、という思いではなく、同じように、もっとどうしようもない感覚だったのかもしれません。ただ、あの時2人が出会えた理由も、その感覚と同じ理由なのではないかと思います。あの時は、ひょっとすると黄昏時だったのではないでしょうか?
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これらの2つの場面が、自分には物凄く心に刺さったように思えました。その理由をこうして考えてみた次第です。そうして、"三葉は瀧を隠り世でずっと待ち続けていた"という考えに行き着いた時に、どうしてここまで、自分がこの作品に惹かれるのかがわかった気がしました。ただし、色々と理屈を組み立てましたが、三葉の世界のどこまでが現実で、どこからが隠り世での事なのか、言っている自分でも、正直、境界はよくわかりません。ただ、過去に戻って死者の運命を変えると考えるより、隠り世にまで赴いて神隠しに逢った大切な人を助けると考えた方が、劇中の描写や現実にある理論に則しているように思えたし、日本特有のファンタジーとして綺麗なんじゃないか、そう思ったに過ぎません。理屈抜きで運命の赤い糸の一言で全てを片付けても、それでも良いんじゃないかと思います。

最後に、三葉は瀧に恋したから、彗星が落ちるその前に彼に会いに行って、それで縁が結ばれたんです。そうして結ばれた縁から、彗星が落ちるその前に、彼女に恋した瀧が三葉に会いに来たんです。色々と理屈をこね回しましたが、それが何よりも良かったんです。すべてがこの一点に収束するよう、リアリティではなく、説得力を持っていた事が良かったんです。これはまさしく、新海誠監督が描いてきた"セカイ系"の系譜にある作品だと思います。

追記:映画の公開日である8月26日は、超弦理論を統合したM理論の提唱者"Edward Witten(エドワード・ウィッテン)"の誕生日だそうです。不思議な縁ですね。SFというジャンルがもっと面白く、間口の広いものでありますように。