六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

『未来のミライ』を解説する

細田作品フォロワーの私も手放しで絶賛したりはしませんが、それでも言い掛かりとしか思えないレビューや感想が目立つ様に思います。家族じゃなきゃダメなのかとかお兄ちゃんやんなきゃいけないのかとか、そういう風に憤慨してる人が多い印象ですが、それはあの家族やくんちゃんの話であって、別に押し付けるような内容ではないですしそれで駄作だって言ってる方は筋違いだと思います。では、実際はどういう作品だったのかいくつかピックアップして解説してみようと思います。

 

・なぜ場面がコロコロと転換するのか

予告編を見る限りでは「くんちゃんが未来のミライちゃんと一緒に冒険を繰り広げ、その結果としてお兄ちゃんとして成長する」というような物語を期待していた方が多いのではないかと思いますが、実際は、現実とファンタジーの世界がコロコロと転換し一大冒険スペクタルは最初から最後まで起こりません。家族アルバムをパラパラとめくって写真にまつわるエピソードをオムニバスに描くような話です。この点について肩透かしを食らった事も本作の評価を下げる要因となっているのではないかと思います。ただ、この描写は4歳児のファンタジーを描く上で間違ったモノだとは思いません(結果として面白い描写になるかは別問題ですが)。今作は、妹が産まれた4歳児のくんちゃんがぐちゃぐちゃになった感情や心のうちをファンタジーの中で処理し心の安定を図っていくモノであり、その為に現実とファンタジーとがコロコロと転換しているのだと思われます。


・きょうだいが産まれた4歳児の行動とは

本作のくんちゃんの行動をざっと列挙すると…


・部屋を散らかす、片付けられない

・未来ちゃんにちょっかいかけて泣かせる

・新幹線のおもちゃで打とうとする

・お気に入りのズボンが無いとお出掛けを嫌がる


など、あまり見ていて気持ちのいいものではありません。ただ、これらの行動は多少は描写が誇張されている面はありますが、きょうだいの産まれた4歳児の行動としては結構リアルで、実際にそういう状況に陥った4歳児は「おにいちゃんでいるのイヤ!!」と言って幼児退行する事はままある事です。お片付けなど出来ていた事が出来なくなったり、おねしょ癖が復活したり、一見すると理不尽とも思えるわがままを言ったり…、劇中のように激しく幼児退行する場合もあれば、ある日お風呂で「おにいちゃんイヤ…」とボソッとこぼす場合もありますが、いずれにせよ、そうして赤ちゃん返りする事で、失われた(と、本人は危機として思っている)愛情を取り戻そうとするわけです。でも、それだけでは上手くいかない為に心の中のファンタジーで現実に対抗して折り合いを付けようとするわけです。本作の描写がファンタジーに振り切れていない為にどう受け取っていいかわからない、という感想も見られましたが、これは実際にその通りで、本作のファンタジーはくんちゃん心のうちのファンタジーという意味合いが強い為に、観客としてはノリ切れない微妙なニュアンスで描かれていると思います。なので、4歳児をきちんと描くという点においてはあの描写で正解だと思います。ただ、エンタメとして認識するには敷居が高いな、というのが率直な感想です。


・どうして両親や祖父母のくんちゃんへの態度がおざなりなのか

怒るのと叱る(諭す)のは違うとよく言ったものですが、お母さんのくんちゃんへの接し方って前者が多かったですよね…。これが何故かというと、劇中で描かれた通りお母さんのお母さん(くんちゃんのおばあちゃん)の接し方がおそらくそのまま影響してしまっています。はっきりとは理由は描かれていませんでしたが、お母さんも弟さんとの事で荒れていてそれで大目玉を食らっていましたよね。これもままある事なのですが、あまり良い状況とは言えないです。

お父さんに関しても、くんちゃんの自転車の練習を見てあげるのと未来ちゃんのお世話とを両立出来ず、くんちゃんを泣かせてしまいましたよね。まあ、両立させる方が無理というものですが。その後に、実際に手を掛けるのではなく声援を送り続けて父子の繋がりを持つ場面は、親子の関係の描写としてなかなか良かったと思います。…が、この時実はくんちゃんの心が後述の曾お祖父ちゃんとのエピソードに感化されていて、お父さんはいい感じになってるんですけど若干チグハグな印象になってしまっているので勿体無い感じがありました。そこで祖父母くらいはくんちゃんに…と思うのですが、おばあちゃんがくんちゃんの代わりにお片付けをしてしまったり、おじいちゃんが未来ちゃんの写真を撮るのに夢中になっていたり、うーん…良くない。でも、ままある事なんですよね。そういう意味でもストレスとして感じた方もいるのではないでしょうか。身につまされるというか。そこで、下記の曾お祖父ちゃんのお話です。


・曾お祖父ちゃんのお話

さて、本作のオムニバスエピソードの中で曾お祖父ちゃんとの邂逅は一際異彩を放っていた、と多くの方が思ったのではないかと思います。エンドクレジットのキャスト欄でも、芸能人のゲスト声優の中でも特にシークレットゲストという感じで、明らかに内外で特別感がありました。曾お祖父ちゃんがまたイケメンなのですが、演技もそれに合致した自然体な感じで凄く良かったと思います。タイトルこそ『未来のミライ』なのですが、これ、『曾お祖父ちゃんとの夏』ってタイトルなんじゃないかってくらい尺が取られてます。個人的には、映画丸々一本、過去にタイムスリップしたくんちゃんと曾お祖父ちゃんとの一夏の冒険を描いた方がよほどエンタメになる題材なのでは思いました。戦争で負傷した話、曾お婆ちゃんを射止めた話、くんちゃんとの乗馬、バイクでのツーリング、自転車に乗れるきっかけ…、エピソードとしても盛りだくさんです。曾お祖母ちゃんがまた可愛いんだ…。そして何より、かっこいいメカでくんちゃん(と、観客である私)の男の子心を刺激し、高い抱擁力でくんちゃんの甘えたい欲求を満たし、それでいてちゃんと自立も促してくれる大きな存在です。やはり、これだけを主軸にした方が良かったんじゃ…。でも、そうすると兄妹間の葛藤というテーマからはズレてしまうんですよね…、難しい問題です。次はこういうお話を描いてくれないかな…。


・総括

予告のあり方にも問題があったと思いますが、観客が期待したモノと実際に上映された内容とが不一致であった感は否めません。それでも、4歳児をきちんと描くという試みそのものは上手く映像に落とし込まれていたのではないかと思います。ただ、それがエンタメとして成功しているかは難しいところで、本作のエンタメ要素は曾お祖父ちゃんが全て掻っ攫っていってしまいました。リアルに描くというのはなんとも難しい問題です。