六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

〜子どもの為に語られる"ウィザード"の御伽噺〜『ひるね姫』ネタバレ感想と考察

昨日の記事では、観賞のポイントについて少しだけ考察しましたが、今回はネタバレ有りで補足して色々と書いていこうと思います。

 

さて、自分がこれまでに観てきた神山監督の作品ですが、『攻殻機動隊SAC』シリーズ全作、『精霊の守り人』、『東のエデン』シリーズ全作、『サイボーグ009 RE:CYBORG』となっています。だいたい観てますね。参加作品も含めると『人狼』も観てます。全体的にSF寄りの社会派作品が多い印象で、今作の『ひるね姫』は随分方向性を変えてきたなと思いました。しかし、冒頭でエンシェンがタブレット端末を使って機械を操る描写を観て、「あ、魔法使いってのはそういう意味か!!この娘が今作のウィザード(ハッカー)なんだな。ファンタジーに見せかけて、ガッツリSFやるんじゃないか!!」と、ここでこの映画にどういうスタンスで向き合うべきなのかという心算が出来ました。同時に、次はどんなメタファでSFを表現してくるんだろう、と、映画観ながら楽しくて仕方なかったです。昨日も同じ事を言いましたが、内容がチグハグとか分からないと感じた方はまずはここで躓いたんだと思います。

次に、夢の話についてですが、劇中でココネのお父さんが亡くなったお母さんとの出会いや苦労話について、御伽噺のように幼いココネに語って聞かせたモノである事が明かされます。なぜ御伽噺でなければならなかったのか。これは、劇中の現実のストーリーで進行されていた通り、お母さんとおじいさんとの自動車産業に対する意見の確執や、その後の駆け落ちの話等をそのままの形で娘に伝えなかったお父さんの愛情の現れだと思います。これら、現実の世界でウィザードと呼ばれるハッカーと御伽噺の中に登場する魔法使いとをうまくシンクロさせた設定は、チグハグなどころか監督の強みをそのまま活かす形で映画に一本筋を通した非常に絶妙な設定だと感じました。エンシェンの事をウィザード(ハッカー)と表現している人は今のところ自分くらいしかいないようですが、『攻殻機動隊』を知っている人であればこの感覚を共有出来るのではないかと思います。逆に言えば、攻殻に通じている人がそれだけこの映画を観に行っていないのではないでしょうか?非常に勿体無い事です。是非観て欲しいです。

上記の通り、劇中の夢の話は子どもの為に語られた御伽噺です。主人公は若きシステムエンジニア。彼女が会社のシステムに馴染まないハードウェアエンジニアと出会い、志を共にする仲間たちと一緒に夢の実現を目指します。その様子が現実ではどうだったのか、それがエンディングに流れたアニメーションであり、この仕掛けは非常にニクい演出でした。彼女が道半ばで亡くなった事については劇中では事故としか語られず、その真相については最後まで明言されませんでした。多分、そういう事なんじゃないかな…と、ここまで物語を読んだ人なら考える事だと思いますが、表現としてはある種の問題提起として暗に示す程度に留めた事は、自分はこれで良かったのではないか思います。実際、劇中でもエンシェンが炎の中に落ちる時だけその姿がお母さんのモノになっていました。あの場面は本来、お父さんが語った御伽噺には含まれていなかったのではないでしょうか?それはあくまで、問題に直面している大人が考えるべき問題であって、子どもは技術の進歩や未来の姿に夢を見ていて良いと思います。この映画はその両者に対してメッセージを持った物語だと感じました。

ひるね姫』、誰がなんと言おうと自分は面白いと思いましたし、観ていて楽しい映画でした。同時に、エンジニアの夢に思いを馳せながら思い返して少ししんみりする、そんな映画でした。