今日はほのかちゃんに誘われて浅間山に登山に来ていた。
なんでも、高校で入った写真部で課題があって何か撮って提出しないといけないらしい。
ほのかちゃんは山の風景と、それと私をモデルに景色を背景に何枚か写真を撮っていった。でも、どうにもしっくり来ない様子で曖昧な表情で笑っていた。
「ほのかちゃんはどんな写真が撮りたいの?」
なんだか根を詰めている様子だったので私はそう尋ねた。
「私が撮りたいのは、もっときれいでやさしい感じが…」
ほのかちゃんはそう言って、ここなちゃんの写真を見ながらため息をついた。
知らない写真だ。
あのバレンタイン登山の後、正確にはほのかちゃんの受験が終わった後はちょくちょく二人で出掛けているらしい。どうやら縁結びの神様は働き者のようだ。
「もう少し、撮ってみて良い?」
「うん」
それから暫くの間、お互いに曖昧な気持ちを抱えたまま撮影は続いた。私はポーズなんて取ってみたりして、なんだか自分らしく無いなと思った。
それに、ほのかちゃんが変な感じだ。私のことを見ていないような気がした。
「ちょっとカメラ貸して」
「うん?良いけど、あおいちゃん急にどうしたの?」
私は、ほのかちゃんの生返事はそのままにして、カメラを手に取りストラップを彼女の首から外した。そうして、戸惑っているほのかちゃんをそのままフレームに収めシャッターを切ったーーー。
「ーーー今の私、全然楽しそうじゃない……」
自分の映った写真を見ながらほのかちゃんが呟いた。私たちは小休止に背中合わせで手近な岩に座っていた。
「きれいでやさしい感じの写真が撮りたかったんだよね?」
「うん……」
「だったらここなちゃんを誘えば良かったのに」
言ってしまった。
でも、自分が目の前にいるのに、相手の頭の中が他の女の子のことでいっぱいになってるのはなんだか面白く無い。
「……ここなちゃんの写真、人には見せたくない」
……気を悪くさせたと思ったのに、思いも寄らない返答だった。こういうのを惚気というのだろうか。
というか、私の写真なら良いのか。
私がかすみさんたちと遊びに行ったことにヤキモチを妬いていた、なんて言って膨れていたひなたの気持ちが今ならわかる気がした。
そうこうしていると雲が少し晴れて陽が射してきた。私は、立ち上がって伸びをし、ザックを下ろした。
「さっきはキツいこと言ってごめんね」
「あおいちゃん?」
戸惑うほのかちゃんの声を背中で聞きながら、私は断崖に向かって歩いて行った。
私は大きく息を吸って、両手を広げて思い切り声を上げた。
「やっほー!!」
声を出して、山の空気を吸って、そうしたら、天気と一緒に気持ちもなんだか晴れた。本当に口にすべき言葉も見付かった。
「ね、私を撮ってよ」
私は振り向いてそう言った。
ほのかちゃんはハッとして立ち上がり、カメラを構えた。一瞬の間を開けて、彼女はシャッターを切った。
「どんな感じ?」
「うん、あおいちゃんの写真が撮れた」
ほのかちゃんはカメラから顔を上げ、ほころんだ表情で私を見てそう言った。