六連星手芸部員が何か書くよ

基本的には、ツイッターに自分が上げたネタのまとめ、アニメや漫画の感想、考察、レビュー、再現料理など。 本音を言えばあみぐるまーです。制作したヒトガタあみぐるみについて、使用毛糸や何を考えて編んだか等を書いています。

本音を隠して

中学生の頃から、ずっとそうだった。
彼女はいつも、俯き加減で本読んだり手芸に没頭したり、とにかく一人でいることが多かった。クラスメートとも殆ど交流しないし、事務的なこと以外で誰かと話をしているところも名前を呼ぶところも見たことが無かった。目も合わせてくれな
いので、きっと彼女は自分の顔も碌に認識していないかもしれない。

そんな彼女のことを、ずっと見ていた。
中学生の頃から、ずっとそうだったーーー。


『本音を隠して』


ーーー私はそんな彼女と同じ高校に入学し、またしても同じクラスになった。彼女は相変わらず俯き加減で取り付く島もなく、入学式のその日に先陣を切って声をかけたゆりとみおの懇親会の誘いも直ぐに断っていた。
自分はそうしたやり取りを黙って見ていた。きっと、高校でもこのふわふわした人間関係未満の何かが続く、そう思っていた。

ところが、そんな自分の展望は直ぐに裏切られ、彼女の壁をずかずかと容易く壊し、その手を引っ張っていく存在が現れた。

彼女が顔を上げて誰かの名前を呼んでいる。その光景を目の当たりにし、自分はどこか呆然としながらショックを受けていたーーー。


ーーーそれから、彼女は目に見えて変わっていった。

“あおいちゃん、明るくなったよね”

相変わらず一人で編み物に没頭していることもあるけれど、彼女の表情が喜怒哀楽に変わることをいつしか当たり前と思うようになった。

“かすみさん、荷物持ちますよ”

そうして、以前は俯いてた彼女が、今度は膝に手を着き肩で息をする私を気遣ってくれていた。俯いてたのは本当は自分なんじゃないかと、そう思った。

”お土産は信玄餅が良いな“

そう口にした時、我ながらなんて回りくどいリクエストなんだろうと思った。登山の日から二学期まで何日もあるのに足の早いお菓子だなんて……。自分はただ、帰って来たら直ぐに無事を知らせて欲しい、それだけのことを素直に言えず、彼女と会うための口実が欲しいだけだった。

“かすみちゃんは何でもズバズバ言うから”

そんなこと無いんだって思うようになった。怪我してないか、無事に登頂出来たのか、電話でもメールでもメッセージでも何でも良いのに、今もスマホを握ったままたったそれだけのことが聞けないでいた。そうしてベットに横たわったままいつの間にか眠ってしまったーーー。


ーーー翌日、私はスマホの着信音で目が覚めた。そして、その画面に映る相手の名前を見て、私は急激にまどろみから浮上した。

『もしもし、あおいちゃん?」
『あ、かすみさん?おはよう。もしかして寝てた?起こしちゃったかな?』
「んーん、大丈夫。それより、あおいちゃんの方こそ怪我とかしてない?無事に登れた?」
『うん、ちょっとだけ高山病になっちゃったんだけどね、えへへー、今回は頂上まで登れたんだ』

その知らせは私が待ち望んでいたモノで、電話越しにでも彼女がはにかんでいる情景が目に浮かぶようだった。

「そっか……、良かった」
『ありがとう、かすみさん。それでね、お疲れ様会って言えば良いのかな?みんなでやろうってなったんだけど、かすみさんもどう?』
「私、お邪魔しても良いの?」

あおいちゃん達と登山をしたのは初詣の時だけで、そう言えば私は彼女の他の登山仲間とは面識も無かった。

『勿論だよ。お土産もあるし。それでね、ひなたの家なんだけどね、どうかな?』

彼女がその名前を口にした時、ほんの少しだけ胸がチクっとした。だけど、この気持ちは気付かれてはいけないってずっと思っていた。

「うん、じゃあ行こうかな」
『ホント!?良かったー。あ、えっと、日時なんだけどねーーー』


ーーーそうして、あおいちゃんとの約束を決めて電話を切り、私は再びベットに寝転がり、天井を仰ぎ見てため息を吐いた。勿論、安堵の気持ちもあった。だけど、それだけじゃ無くて、心に引っかかった棘の形をまた意識してしまった。

「なー」

いつの間に部屋に入って来たのか、空が小さく鳴きながらベットに飛び乗り私の横で丸くなった。私はたまらずに彼を抱き上げ、囁くような声で打ち明けた。

「これから話すことは私とあなただけの秘密、良い?」
「にゃー」
「私ね、本当は、あおいちゃんのことーーー」

 

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