塞ぎ込んだ私の心を開いたのは、夢結だっだ。
塞ぎ込んだ夢結の心を開くのは、自分だと思っていた。
『嫉妬』
私が遠征から帰って来たあの時、まず初めに視界に飛び込んできたのは、窓硝子に写り込む涙を流す夢結の姿だった。美鈴様との思い出の桜を遠くに眺める彼女の姿を見るのは、こうして一緒に過ごすようになってから一度や二度ではなかった。今もこうしているように、彼女の傷に触れないようその涙を見て見ぬふりをして言葉を紡いだり、時には夜中にうなされる彼女の背中をさすってあやしたり、奥手な献身を繰り返してきたつもりだった。互いの傷を知りながら互いにそれに深くは触れない、そんな曖昧な関係の先にもいつかきっと、そう思っていた。
でも、素直に“ありがとう”と言葉を返す夢結の姿に私は内心動揺した。私が不在にしていた間に何かが決定的に変わっていた。
夢結が変わった原因はすぐにわかった。彼女の可愛いシルトである梨璃さんが、学院に襲来したヒュージとの戦いの中で夢結の心の傷に触れた。拒絶されながらも夢結を抱き留めた梨璃さんに、彼女の心は大きく揺さぶられた。
相変わらず素っ気無いところはあるけれど、夢結は以前のように柔和な笑顔を見せるようになった。相変わらず不器用なところはあるけどれど、夢結は他人のために行動して心を砕くようになった。それは、私が望んでいた彼女本来の姿のハズだった。
梨璃さんの誕生日の早朝、私は布の擦れる音を聞きながら背中で夢結を見送った。可愛いシルトのために外出届まで出し、こっそり抜け出すように部屋を出て行く夢結の様子が可笑しくて、私は背中を丸めながら声を殺してクスクスと笑った。笑いながら、波がこぼれた。
梨璃さんの誕生日を祝い帰って来た夢結は、どこか心こにあらずで、でもどこか満ち足りた雰囲気だった。あの夢結をこんなに可愛くしてしまうなんて……。私もそれが嬉しいと、私こそ素直に伝える努力をすべきだった。
「レアスキル、カリスマ。類稀なる統率力を発揮する、支援と支配のスキル」
そうして私の唇が紡いだ言葉は、夢結の顔を、気持ちを曇らせるには十分なものだった。こんな事を、本当は言うつもりじゃなかった。私は、自分の拗らせた性格を心の中で自嘲した。ただ私は、夢結にイジワルがしたくてそう言ったに過ぎなかった。それが彼女を苦しめる事になるとも知らずに……。
私が嫉んでいるのは梨璃さんを寵愛している夢結?それとも、私が妬んでいるのは夢結の寵愛を受ける梨璃さん?